Story-Teller
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治療を終えてこんこんと眠り続けるファースト・フォースの隊員達は、日が昇る前に別棟の奥へと移動させられた。
まるで隔離するかの様な扱いに不気味さを感じているのか、風早の部下は肩を震わせて隣に立っている。


「……風早副班長……一体、何があったんですか……?」


問われても何も答えられなかった風早は、ただ眠り続ける彼等を見守るだけだ。
真相を知るであろう彼等は一人残らず戦闘不能に陥り、風早には、知る術も無かった。






篠原が目を覚ますと同時に、上層部からの呼び出しがあった。

まだ動ける様な身体では無いと突っぱねる風早を押し退けた篠原は、いつもよりも早足で去って行く。
その背中を風早と共に見送っていた同僚の医師は、隊員達の看護の合間に『UC館』の様子を見に行ったらしく、酷く不気味そうに声を潜めた。


「『UC』の不具合で臨時休館、だって。完全に目張りしちゃって、中が全然見えないの」


同僚は不満げにそう言ったが、彼女は昨夜の『UC館』を見ていない。

壁は削れ、『UC』は一つ残らず砕け散り、白い清潔感溢れていた床には血溜まりが作られていて、一目で激しい抗争があったと解る。

あの様子を見たのは、医療班では風早のみだろう。今も隣で震える部下が見たら、完全にトラウマものだ。
下手に脅えさせる必要も無いので、風早は黙って彼女の不満を聞き流した。




意識を取り戻したものの、夢現を行ったり来たりする高山の身体に巻かれている包帯を代えようかと思案している時、篠原が戻ってきた。

何か嫌な想像でもしていたのか、篠原の姿を見た部下はホッとした表情を見せたが、次の瞬間、その顔を強張らせる。
部下の視線の先でフラフラとしている篠原の肩を慌てて支えれば、間近で見た顔は蒼い。
いつもとは全くと言っていい程に雰囲気の違う篠原に、部下はオロオロと視線をさ迷わせ、昨夜と同じ涙目を風早へと向けてくる。

篠原の肩を支えたまま部下に目配せすれば、察した部下は、静かに部屋を出て行った。





篠原をベッドに座らせてみれば、羽織っただけのブルゾンの下に見えた包帯が朱に染まっている。

何をしてきたのかは知らないが、せっせと塞いでやった傷が開いたらしい。
いっそ潔くしっかりと縫いつけてしまおうかと見下ろしていると、篠原がゆっくりと顔を上げた。


何も言わずに視線を追えば、カーテンで区切られた五つのスペースへと至る。

そのカーテンの向こうでは、重傷だった高山と吉村、桜井と関が未だ麻酔が抜けきらずに眠っている。
彼らに比べれば軽傷の篠原だが、飽くまでも高山達と比べれば、の話だ。医師としては、まだ動かないでいて欲しい。

そんな身体を引き摺ってまで出向いた先は、昨夜の出来事を必死で揉み消そうとしている上層部連中の元なのだろう。




虚ろな横顔を眺めたまま、敢えて風早は口を開く。


「口封じでもされてきたのか」


風早の声は静かな室内に響いた。篠原の視線が、カーテンから床へと下がっていく。


「……箝口令が出た」

「箝口令?」

「ファースト・フォース隊員、並びに昨夜『UC館』に入った全ての隊員は、昨夜の一切の情報を外部に伝えることを禁じる……」


静かにそう口を開いた篠原を見下ろして、風早は溜め息を漏らした。




何が起こったのかは解らないが、『国内最強の戦闘集団』とも言われる精鋭部隊ファースト・フォースが惨敗したなどと世間に知られれば、ファースト・フォースのカリスマ性に惹かれている国民達の信用性が一気に失われることも考えられる。


この、ファースト・フォースの惨敗は、語られてはならない。
上層部の判断が、篠原を底まで追い詰めたことに、風早はただ唇を噛み締めることしか出来なかった。





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