Story-Teller
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風早が夜勤当番の部下に無線で叩き起こされたのは、二十六日へと日付が変わる一時間ほど前のことだった。

立て続けの徹夜で疲弊していた身体はなかなか動かなかったが、部下の要領を得ない、それでいて泣きそうな声に、頭は一気に覚醒した。

ベッドの横に放ったままだった白衣を羽織ながら廊下を駆けていけば、窓の外には真っ青な光がちかちかと煌めいている。

それが何かは解らなかったが、ゾクゾクと背を駆け上がる嫌な予感に、オフィスへと向かう足が自然と大股になった。





医療班のオフィスに近付けば、夜中だというのに喧騒が聞こえてきた。

そして、グラリと目眩がする様な濃厚な血の臭い。

職業柄、嗅ぎ慣れたはずの臭いだが、それが一人二人のものではないと気付いて、こめかみを汗が伝う。



階段を駆け下りた先で見たのは、オフィスに運び込まれてくるファースト・フォースの隊員達の、酷い姿だった。



一番初めに運び込まれて来た副隊長の高山は、身体中が鋭利な刃で切り裂かれた様にボロボロになり、絶え間無く流れる血液が担架を汚していた。

高山の意識はほとんど無く、呼びかけにも応じない。医療班の班長が真っ青な顔をしたまま指示を飛ばし、すぐに集中治療室に駆け込んで行った。


続々と運び込まれて来るファースト・フォースのメンバーは皆一様に刃物で皮膚を断たれ、そこから流れる鮮血に風早の補助についていた部下が遂に泣き出してしまった。

そんな部下を叱咤する事も忘れて、隊員達の治療に専念した。そうしないと、見知った彼らが死んでしまうと本能的に悟っていた。それほどまでの被害を受けた彼ら、ファースト・フォースを見るのは初めてだった。


部下達は酷く怯えていたが、それでも治療する手は止めない。
恐らく彼らも、ファースト・フォースの隊員たちが死に際にいることをはっきりと理解していたのだろう。


眩暈がしそうなほどの血の匂いを纏ったまま意識朦朧で荒い息を吐く関が、吉村が、桜井が、皆、同じ言葉を繰り返していたことも、風早たちに恐怖を覚えさせた。



『桔梗が、来た』



それがどういう意味かは解らず、問う様な事態でも無いことは解っていた。
そもそも、そんな余裕は無かった。



重傷だった前線のメンバーの治療を途中で他の医師たちに任せ、オフィスの外でぐったりとしている後方支援のメンバー達の治療へと向かう。

前線に立つ関や高山達と比べて軽傷の彼らは、意識もハッキリとしていた。だが、皆が顔を蒼くし、かたかたと目に見えて震えている肩が異様だった。

身体中に負った切り傷の消毒を続けながら、ようやく風早は何が起こったのかを知った。


後方支援のメンバーの一人である木立が、蒼白い顔のまま教えてくれたのは、『UC館』に反UC派が攻めてきたということだった。

反UC派が攻めて来ることは珍しい事では無いのだが、木立はなおも続けた。



『桔梗組の当主が、来た』のだと。



不意に、友人であり、ファースト・フォースの隊長である篠原の姿が見えないことが不安になった。
木立に篠原の居場所を問うても、わからないと首を振られる。
後衛の木立たちを退避させるまで、篠原はその背後を守っていたようだ。しかし、その後は知れず。

その場を部下に任せ、攻防戦が繰り広げられていた『UC館』へと駆け出した。



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