Story-Teller
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半ばぶつかる様にして勢いよく開いた扉の先で、風早はきょとんと目を丸めていた。

医療班のオフィスを見渡せば、風早以外の姿は無く、当の風早も帰り支度を始めているところだ。
壁に掛けられた時計を見れば、定時を三十分程過ぎたあたり。週末だということもあって、皆早々に帰ってしまったのだろう。

目を丸めたままだった風早が、脱ぎ掛けていた白衣を着直して歩み寄ってくる。


「どうした? 誰か怪我でもしたのか……?」

「……違います。風早先生に、お聞きしたいことがあるんです」


聞きたいこと? と首を傾げた風早を見上げ、僅かに乱れた息を整えた。
緊張からなかなか息が整わない相楽の様子から何か察したのか、風早は黙って椅子に座り直し、こちらを見つめている。
椅子を勧められたが座らずに一度唾を飲み込み、ソッと風早の顔色を窺いながら口を開いた。


「風早先生、去年の……十一月二十五日、ファースト・フォースは何と交戦したんですか?」


問うた瞬間、風早の眉が潜められたことに、心臓が僅かに跳ねた。まるで悪戯をしたと親に申告する子供の気持ちだ。握ったままの手には汗がしっとりと滲む。
風早の視線は、訝しげに、というよりは、「何故、それを知っている」とでも言いたげだった。その視線にもう一度唾を飲み込む。


「篠原さんが、医療班には箝口令が敷かれてないって言ったので……」

「……篠原が言ったのか? 相楽に……?」


一層眉を寄せた風早に、コクリと素直に頷く。すると、彼は視線を落として沈黙した。
真剣そうに目を細めて黙り込んだままの風早の茶の髪を、居たたまれない気持ちで眺めていた相楽は、一歩後ずさった。


「……あの、やっぱりいいです……」


ポツリと呟けば、風早が見上げてくる。その視線から逃れる様に俯いた。


聞きたい気持ちは今も大きいが、果たして自分が聞いていい話なのか、まだ判断しかねていた。
篠原の言葉を真に受けて医療班まで走っては来たものの、それが正解だったのかどうか、今更不安になってくる。

尻込みした気持ちのまま、後ろ手にドアノブに触れた。


「風早先生、帰るところだったんですよね。引き留めてしまってすみませんでした。失礼しました」


自分にしては饒舌に紡がれた言葉は、風早が相楽の手首を掴んだことでごくりと飲み込んでしまった。
顔を上げれば、いつの間にか歩み寄って来ていた風早が、相楽の手を掴んだまま見下ろしている。
そのまま手を引かれ、白く柔らかなベッドの上に座らされると、風早は隣に腰を降ろした。

訳が解らずに風早の横顔を見つめていれば、風早の小さな溜め息が聞こえてくる。


「篠原が許可を下ろしたんだったら、俺はちゃんと教えるよ、相楽」

「……俺が、聞いてもいい話なんですか?」


改めて問えば、風早は口の端を引き上げて頷いた。


「だって篠原が言ったんだろ? 『医療班に行け』って。じゃあ、俺がするべき事は一つだ」


引き上げていた口角を引き締め、風早が首を捻って見つめてくる。見つめ返せば、静かな低音が医療班のオフィスに響いた。





「十一月二十五日は、深夜にUC館へのテロ攻撃があったんだ」








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