Story-Teller
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現場にファースト・フォースが現れたことで、反UC派と戦闘集団の激しい攻防戦が始まるのだろう、とシャッターチャンスを狙っているマスコミの前を駆け抜け、一気に出版社から離れた。
今か今かと突入の瞬間を待っていた野次馬は、訳が解らずにポカンと立ち尽くしている。


そのままkeep outのテープも走り抜けて、出版社から六社離れたビルのドアを開いて中に滑り込んだ。
その会社の従業員は既に避難済みらしく非常灯のみの薄暗い階段を駆け上がり、十階建ての屋上までたどり着く。

フェンスに手を掛けて下を覗くと、完全に篠原達を見失ったマスコミ達が右往左往しているのが見えた。早くしなければ、すぐに居場所を見つけて追いかけてくるだろう。
一瞬の間でもマスコミの注意から外れたことに、よし、と篠原が振り返ると、桜井が口元を引きつらせながら蒼褪めていた。

「……隊長? ……まさか、ビルを飛び移る、とか言いませんよね?」

まさかそんなね、と自問自答をしている桜井に対して、篠原は目を細めて悪戯気に口端を上げてみせる。その表情に、桜井は一歩退いた。

ビルとビルの間隔は約三メートル。大した距離ではないが、もし、万が一、うっかり、落ちたら。

サアアアッと音が聞こえてきそうなほどにさらに蒼くなった桜井を見上げ、相楽は足首をぐりぐりと回して準備を始める。既に篠原がフェンスについていた扉を開き、飛び出すための進路を開放していたからだ。

「う……うわあああ、まじだよ、まじで飛ぶ気だよ……ルパンかジャッキーしかやんねぇよ、そんなこと……」

ぶつぶつと言いながら更に一歩ずつ退いていく桜井に構わず、篠原は至って普段どおりの声色で指示を出し始めた。

「さっきも言ったが、犯人が人質に危害を加える前に制圧する。俺と相楽が人質を解放するまで、関、桜井は犯人を抑えろ。……遅れたら置いていくぞ」

チラリと横目で桜井を窺ってみれば、覚悟を決めたのか、ゴクリと喉仏を上下させて唾を飲み込んでいる。

出版社へと体を向け、ああ、行くのか、行くのね、行かなきゃいけないのね、などと一人で呟く桜井の視線の先で、篠原が軽やかに助走を始めた。

ふわり、と篠原が跳ぶ。
隣のビルの屋上に着地すると同時にくるりと身体を地面の上で転がして衝撃を逃した篠原は、止まりもせずに屋上を横断し、さらに次のビルへと跳んでいった。

その後を何の躊躇いもなしに続いた関も、軽やかに着地と跳躍を繰り返す。
一度相楽を見た桜井は、口端をひくひくと痙攣させながら、関のあとを追って地面を蹴った。






「へやああっ」

どこぞの三分間しか活動できない銀色の巨人の様な掛け声を上げながらビルとビルの間を飛び越え、無事に着地した桜井は、へなへなと腰を抜かしてしまった。
先に着いていた篠原と関はすでに息を整え終え、桜井を一瞥してからホルスターから銃を引き抜く。

最後の一人、相楽が出版社の屋上に到着すると、社内に通じる銅の扉の前で一度全員が視線を交わした。未だ蒼白な顔のままな桜井も、どうにか銃を構えてアイコンタクトに参加する。

関がドアノブに手を掛けると、それはゆっくりと回る。施錠されていないことを確認した関が、篠原に頷いてみせた。

いざ突入、と息を飲んだ篠原の前で、ふいに思い立った様に目線を下げた相楽に、関は首を傾げ、篠原も扉から相楽へと視線を移した。
そんな視線も気にせずに相楽は腰に巻かれたシザーバッグをガサガサと漁り、黄色い包装の飴を一つ取り出して口の中に放った。ふわりと漂うレモンの香りに、緊張感が僅かに薄れる。

幸せそうに緩んだ相楽の表情に、知らずに関も口許が緩んでしまう。にこにことしている相楽と関に、蒼白だった桜井もつられて笑ってから、呆れた表情の篠原に気付いて咳払いをした。
桜井のわざとらしい咳払いに、相楽はぐっと口を閉じ、関もまたドアノブを掴む己の手へと素早く視線を移す。
一度霧散しかけた緊張感が、再度膨れ上がるのを感じて、相楽は口の中のキャンディを噛む砕いた。


「行くぞ!」


篠原の声と共に、重い扉は開かれた。






>>>To be continued,



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あきゅろす。
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