Story-Teller
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「高山さん……!」

相楽の悲痛な声に、救世主は困った様に眉を下げた。それから、精悍な顔立ちに相応しいほどの爽やかな笑みを浮かべて、赤くなってしまった相楽の頬を撫でる。
ひりひりとした頬に触れられて目を細めた相楽に、彼は苦笑した。

「相楽も少し反省しろ」

相楽の救世主こと、ファースト・フォース副隊長の高山 俊也(たかやま としや)に窘められ、相楽は素直にこくりと頷いた。相楽が頷くと同時に、それを横目で見ていた篠原は再度舌打ちを漏らす。
苛立ちを全面に押し出したまま隠しもしない篠原の反応に気付いた高山は、軽く肩を竦めてから微笑を見せた。

「篠原。気持ちは解らんでもないが、今回は相楽のお手柄だろ? 一人で反UC派を制圧したんだから」

「それとこれとは話が違う。 たまたま相手が弱っていたから相楽一人でもどうにかなったかもしれんが、最悪、返り討ちで泣き寝入りだぞ」

「そんなミスしませんよ」

ポツリと相楽が口を挟めば、篠原の逆三角形になっている鋭い目で睨まれた。篠原のこめかみに浮かぶ青筋がヒクリと動くのを眺め、相楽は顔を背けてから不満を隠しもせずに口を尖らせる。
そんな相楽と篠原のやり取りに、高山はやれやれと頬を掻いた。

「とにかく事後処理が先だろ、篠原? 本部に報告する為にも、状況を確認しに行こう」

言いながら篠原の背をポンと叩いた高山が、一度だけ横目で相楽を見る。その目は、「困ったな」とでも言いたそうに細められていて、口端には僅かに苦笑が浮かんでいた。
未だ目尻を吊り上げたまま苛立ったように靴底を鳴らして歩き出した篠原と、それを追っていった高山を見送り、相楽は痛む頬を手の甲で撫でる。

……いってー。別につねらなくてもいいじゃないか。
あー、いてー。などと篠原への不満を脳内で唱えていれば、背後から優しく肩を叩かれる。
きょとんと目を丸めてから振り返ると、土埃の舞うその場所には不釣り合いなほどに優しい空気を纏う男性が視界に映った。

にっこりと柔和な笑みを浮かべて立っていたのは、ファースト・フォース内で隊長と副隊長に次いで三番目に指揮権を持つ、監理官の吉村 申吾(よしむら しんご)だった。
優しげに垂れた目許と上品な笑みはデスクワークが似合いそうな落ち着いた印象を与えるが、吉村も最前線を担うハードワーカーの一人だ。
彼の柔らかな雰囲気に包まれて、相楽はきつく寄っていた眉間の皺をパッと消した。


「また怒られてしまいましたか、相楽くん」

「……まぁ、はい」

「そんな歯切れの悪い返事をするって事は、自分の何が悪かったのか理解したんですね?」

そう言って覗きこんできた吉村に、相楽は無意識に口を尖らせる。
篠原があれ程に怒ったのは、相楽が勝手に単独行動を取ったからだ。解ってはいる。けれど、篠原相手だと素直に謝れなくなる。
そして、恐らくそんな態度が一層篠原を怒らせてしまう。解ってはいるのだけれども。

クスリと笑う吉村を見上げると、ふわふわと髪を混ぜるように頭を撫でられた。彼は、相楽の天の邪鬼さも理解してくれているらしい。


「勇敢で優秀なのは良いことですが、一人で突っ込むのはやめてください。あなたも、ファースト・フォースの大事な一員なんですから」

「……すみません」

「……篠原君にも、素直にそう言えるといいんですけれどね」

困った子だな、と目許を緩めながら相楽の頭をポンポンと撫でていた手が不意にピタリと止まる。思わず上目遣いに吉村を見上げると、吉村の柔和な顔立ちが妙に険しく歪んでいた。
どうしました、と小さく問えば、大きな溜め息が返って来る。

「爆発に巻き込まれたそうですね? コブが出来てますけれど」

「あ? は、はい。でも別に大した怪我では……」

言いかけて口を噤む。
吉村がひんやりと冷たく目を細め、半ば睨む様に見下ろして来ていたからだ。いつもの優しげな雰囲気を消し去ってしまった吉村に、咄嗟に言葉が出なかった。

「……後から大事になるかもしれないでしょう? 今日はもう本部に戻って、医療班で診察を受けて来なさい。―わかりましたね?」

言葉は優しい、いつもの吉村だ。
だが、言葉の節々に有無を言わせない威圧を含める彼に、相楽は戸惑いながらもコクリと素直に頷いた。
それに満足したのか、またふわりと優しい笑みに戻った吉村は、ひとしきり相楽の後頭部に出来たコブを撫でてから去って行く。篠原や高山と合流するのだろう。
吉村の姿が完全に見えなくなると小さな溜め息を吐いた。


本来なら、制圧した自分が後処理を担わなければいけないのだが……
見渡せば、他の隊員達がテキパキと相楽がやるべき仕事を終えてしまっているところだった。


暫しぼんやりとその様子を眺めていたが、踵を返して本部へと戻る道を歩き出した。




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