Story-Teller
眠るきみに秘密の愛を(高山)




―自分は何をした?


背中で閉めた扉にそのまま寄りかかり、高山は片手で口許を覆った。

ゆっくりと口内の甘いミルク味のキャンディを舌で転がす。

そうして少しだけ落ち着いてきた脳内でフッと思い出したのは、唇に残っている柔らかい感触。

それと同時に、顔に熱が集まった。


―やって、しまった…


冷静な脳内とは逆に心臓はバクバクと早鐘を打ち、視線があちこち泳いでしまう。

そうしていると、背後の室内で僅かに物音がした。

反射的に扉から離れ、廊下を早足で歩き出す。

角を曲がり、廊下を駆け上がった。

そのまま最上階まで上がると、屋上の戸を開く。

真っ青な空の下、人の居ない屋上は酷く静かだ。

フラフラとフェンスに寄り掛かり、広い空を見上げる。

冷たい風が頬を撫でるのが気持ちいい。


………いつかやるとは思っていた、けど。





共に市街の巡回に出た相楽が、反UC派の男に護身用の警棒で殴られたのを見た瞬間は、脳が真っ白になった。

昏倒した相楽が地面に倒れるのと、自分が男に蹴りかかるのは同時だった。

あわや防衛軍とは思えぬ様な乱闘騒ぎ、という寸前で、たまたま通り掛かった警察が止めに入り、我に返る。

反UC派の男を警察に押し付けて、気を失っている相楽を抱き上げて基地まで駆け出した。




思い返せば、随分混乱していた様だ。


なぜ、医療班を呼ばずに抱えて走った。基地までの距離、走って十分を。


気を失ってはいるものの、大事には至らないという風早の診断にホッと胸を撫で下ろし、オフィスまで連れて帰った。


なぜ、部屋に連れて行かずに、オフィスに行った。


まずいな、思い返すほど、自分の狼狽っぷりに頭が痛くなる。



最後に、極めつけ…


少し蒼白い顔で眠る相楽に、唇を落とした。



うわぁぁ、とフェンスを叩く。

ガシャン、という音が妙に響いた。

いくら混乱していて、正常な思考で無かったとはいえ、それはアウトだ。

決して、


唇がかわいかったからー


とか、そういう理由ではない。決して。断じて。


…寝込みを襲うって…

額をフェンスに押し付けて、じっと自分の爪先を見つめた。

そうして、ハッと思い出す。

逃げる様にオフィスから離れたが、相楽は一応怪我人だ。

風早にも、暫くは様子見てやれ、等言われている。

慌てて戻ろうと振り返り、足を止めた。


…どういう顔で、戻ればいいんだ?

…気付いてたら、どうする?


グッと、足が地面に吸い付き、踏み出せない。


………いや。

今はそれどころじゃない。

踏み出した足は、すぐに駆け足に変わる。


…例えば、あの子が気付いていたら。

もう、意を決して伝えてしまおうか、この想いを。

ずっと秘密にしていた想いを。









「…夢か?!」

オフィスで一人、そう叫んでいる相楽に、内心ホッとした。

それと同時に、どこかガッカリしたのは胸に秘めておく。


眠るきみに、誰にも言えない秘密の愛を。

この想いは、まだ秘密にしておこう。


お題:確かに恋だった より



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