Story-Teller
誰にでもスキだらけ(篠原)


「相楽は菓子があればすぐに釣れる」


篠原がポツリと言えば、隣に立つ背の低い部下はキッと眉を吊り上げて見上げてきた。


「馬鹿にしてるんですか」

「間違えてはないだろ」


返してから手に持っていたファイルを棚の一番上に戻す。
相楽を連れて資料庫の整頓に来てみたが、想像以上の散らかり様だった。
隣でカタンカタンと資料を棚に戻していた相楽は、眉を吊り上げたまま口を尖らせる。


「釣れるって、魚じゃないんですけど」

「だいたい同じじゃないのか。
吉村にプリンで釣られたんだろ、部屋の掃除の手伝い」


言いながら箱に詰めていた資料を取り出す。
まだまだ先は長そうだ。


「高山の晩酌にはケーキで釣れたとか。
関はアイスで釣ったとか」

「……なんでそんなに知ってんですか」


不服そうに向いた相楽にチラリと視線を遣り、資料をファイルに入れた。


「隊長だからだ」

「………なんだよ、それ」


未だにむぅ、と口を尖らせている相楽は、ファイルをペラペラと捲りながら眉を寄せている。
手を止めてそれを眺めていることにも気付かないあたり、相当悔しかったのだろう。


吉村が、プリン片手に相楽を口説きに行ったのは知っていた。
わざわざ取り寄せたとかいう、人気のプリンらしい。

次の日、偉くご機嫌な吉村を見た時は、あの馬鹿、簡単に釣られやがって、と内心溜め息を吐いた。


そうかと思えば、高山の部屋にのこのこ行ったとか。

関と出掛けたとか。



なんというか、危機感が無い奴だと思う。


………奴等がどういった意味で近付いてくるのか、全く気付かない阿呆だとも思う。


視界の端で、相楽が棚にファイルを戻す作業を再開した。
カタンカタンと順調に戻していたが、不意に手を止めた相楽は、じっと棚を見上げている。
首を傾げて視線を辿ると、棚の最上段を見ていた。


「…………届かんのか」


呟けば、ムッと相楽が睨んでくる。
それに構わずに手を伸ばし、ヒョイと相楽の手にあるファイルを取った。
それを最上段に戻せば、目を丸めて見上げてくる。

それから少し考えた様に目を細め、小さくありがとうございます、と呟いた。


……本当にスキだらけな奴だ。


俯きがちにファイルを見下ろす相楽の横顔を眺めてから、息を吐いた。


「相楽」

「―はい?」

「オフィスの冷蔵庫に、チョコが入ってる」


へ?と目を丸めて見上げてくる相楽から視線を外し、ファイルを閉じる。


「終わったら食え」

「…はい」


チラリと横目で見れば、酷く幸せそうに微笑んでいるのが見えた。


むかつくけれど、奴等の気持ちが少しは解ったかもしれない。


ただ、やっぱりスキだらけなのは、気に入らない。





お題:確かに恋だった より





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あきゅろす。
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