Story-Teller
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「え……?」

車内に、相楽の声がぽんと落ちた。
篠原は、ハンドルを握ったまま、じっと前方を見据えている。相楽の戸惑いもよそに、篠原はやけに落ち着いている。先程までは、篠原の方が妙に焦っていたというのに。

防衛軍の基地まで戻ってきた相楽と篠原を出迎えたのは、しっかりと閉じられた門扉だった。普段なら常時開いているはずの、隊員用の通用口だ。

内部の操作で、自動で開閉できるようになっているそれは、緊急時にしか閉じることはない。
相楽が知っている中で、その門扉が閉じられたのは、基地の門前で反UC派が大勢で抗議運動を始めたときだけだ。
中に侵入しようとする反UC派をがんと遮断した鉄製の重たく堅牢な門は、今、篠原と相楽を遮っている。


門扉の向こうにそびえる基地に、異変は見受けられない。
「どうして」と相楽が呟くと、篠原は静かにハンドルから手を離した。
その手が、車載用の通信機に伸びる。通信を繋ごうと切り替えを押しても、ざぁざぁと不快な音が鳴るだけで、応答が返ってくることがない。
こくり、と唾を飲み込んだ相楽は、耳に着けられている小型の通信機に触れる。こちらも、同じくざぁざぁと鳴るだけだった。

「通信障害……?」

自分が発した声のはずなのに、自分のものとは思えないほどに低かった。緊張した色が滲んでいる。
ファースト・フォースが身に着けている無線機は、最新のモデルだ。国内外でも高性能であることを評価されているもので、ファースト・フォースの荒事にも堪える耐久性と広い通信範囲を誇る。
これまで、通信障害に妨害されたことは一度もない。それどころか、この基地自体、通信妨害にびくともしないシステムを持つ堅城であるはずなのに。


篠原が再度ハンドルを掴んだ。はっとして彼を見れば、ゆっくりと車を後退させてから、ハンドルを切る。

走り出したのは、UC館の裏口がある方だ。
基地の周囲は高い柵で覆われている。門扉が閉まっている以上、基地へ入ることはほぼ不可能だ。
向かっているUC館の方は、閉館時刻と同時に館内のすべてが施錠される。
開錠用のキーは、幹部格や隊長格などの特定のものにしか渡されていないが、篠原は、その特定のもののうちの一人だった。
UC館の裏口を開錠して、UC館と基地を繋ぐ連絡棟から基地に入るつもりなのだろう、と推測して、ゆっくりと息を吐き出す。

門扉から離れて、UC館の裏手へと向かって行く。
車窓から見上げる基地は、暗い。常から節電を促されていて、定時を過ぎれば廊下も非常灯のみの薄暗い施設ではあるが、やけに明かりが少ない気がした。
ぐるりと基地の柵の周囲を回って、併設されているUC館の前まで来る。

UC館を眺めた相楽は、その暗さに気付いてゾッとした。
一階フロアは、全面ガラス張りだ。
遠くからでも中が覗ける開放的で明るい造りが好評だというのに、いま、そのフロアが灰色に染まっている。
まるで篠原と相楽を拒絶するように、UC館はシャッターが下ろされていた。一階のフロアだけではない、二階も、三階も、中が窺えるはずのガラスは、すべてグレーのシャッターで塞がれている。

「篠原さん」

咄嗟に名前を呼んでみても、返答はない。
ただ、UC館の裏手へと向かってハンドルを切る篠原に、相楽は僅かに手が震えるのを感じた。




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