Story-Teller
XV




「相楽、動きます」

耳に着けた小型の無線機にそう告げると同時に駆け出していた。
扉が開くと同時にエレベーターに滑り込んだ彼女を追って、閉まりかけた扉を片手で押さえて制止する。
エレベーター内で怪訝な表情をした彼女は、扉の開閉スイッチに指を掛けたまま、相楽を見つめていた。
乗らないの、と言いたげな彼女を真っ直ぐに見据えて、相楽は口を開く。


「今夜のパーティーにご参加の方ですね?」


問うと、彼女の冷ややかな表情に僅かに変化が滲んだ。
一瞬だけ眉間に皺が寄ったのを見逃さなかった相楽は、逸る気持ちを抑えながら努めて冷静な声色で続ける。

「お急ぎのところ引き止めて大変申し訳有りません。パーティーはもう始まっておりまして、入口も閉鎖していますので、ここで受付を済ませて頂いてもよろしいですか」

エレベーターの扉が自動的に閉まるのをぐっと押さえつけて言えば、彼女はじっとこちらを見つめていた。
その指が開閉スイッチを何度も押し続けているのを一瞥してから、相楽はもう一度口を開く。

「どうか、御協力お願いします」

これで聞かなければ、実力行使に出るしかないだろうか。
脳裏にその決断が過ぎるのと同時に、彼女はゆるゆると指をボタンから離した。
相楽の腕の下を潜って彼女がエレベーターを降りると、僅かに逸っていた心が落ち着く。

そのままフロントの方へと進んでいく彼女を追いながら、次にすべき事を順序立てて整頓した。
まずは、身元の確認と、武器の有無を……




相楽の思考はそこでぶつりと途切れる。


不意に振り返った彼女が、美しく長い脚を持ち上げたのが見えた。咄嗟に右腕で腹部を庇うと、そこに鈍い衝撃が走る。
長い髪を振り乱した彼女は、続けざまに鋭い蹴りを繰り出していた。先程よりも高い位置を狙う脚は、相楽の胸の辺りを掠める。

後方に飛び退いて彼女の攻撃範囲から逃れると、それと同時に身を翻した女性がエントランスの唯一の出入り口である自動ドアへと駆け出していった。

「交戦します!」

無線に向かって叫びながら、大理石の床を蹴る。

女性とは思えぬ俊足で一気に自動ドアへと向かう彼女を逃すまいと、一瞬でトップスピードへと加速した。

彼女が自動ドアを潜る寸前で、その細い腰に飛びつく。
縺れ合う様に床を転がると、瞬時に相楽の腕から逃れた女性は、すぐに体勢を立て直して相楽へと脚を振り上げた。それをはっきりと確認する間もなく、相楽は彼女へと飛び込んでいく。

顔前できつく握った拳を構える彼女の姿が、一気に近付く。
上段の早い蹴りをすんででかわしてしまえば、片足立ちの状態の彼女は上手く反撃できない。

眼前に迫った相楽に、咄嗟に構えた拳で突きを繰り出した女性の手を片手で捕まえる。
同時に、体を支えている片足を足払いで地面から引き剥がした。

空に浮いて体勢を崩した彼女は床に倒れこむ。
白い手首を掴んで背中側へと捻りあげると、小さな呻き声が聞こえてきた。

床にうつ伏せの状態で押し付けた彼女の細い腰を跨いで馬乗りになれば、体格差のある女性の抵抗は微々たるものだ。



女性の手を固定したまま、細く息を吐き出した。

動きを制することには成功した。
あとは拘束するだけだと腰に巻いたホルスターに常備している手錠を片手で探っていた相楽は、こくりと息を飲んだ。





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