Story-Teller
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問答無用で口の中に固形物を押し込まれる。
突然のことに目を白黒させた相楽を覗き込んだ篠原が、ちっと舌打ちしてから目を逸らした。

そうしている間に相楽の口内にはとろりとした甘さが広がっていく。それに気付き、恐る恐る口の中の固形物を咀嚼した。


「……このサクサクとした表面があっという間にサラリと舌の上で溶けていく儚さ。同時に広がる濃厚なストロベリーの匂いと味。甘さ控えめなクリームに包まれた苺が甘酸っぱく程よいアクセントになっているこれは、『レーヌ・ド・ルージュ』で最も人気の高いマカロンのストロベリーフレーバー……!!」
「……詳しすぎるだろ……」

眉間に深い皺を寄せた篠原に構わず、相楽はこくんと喉を鳴らす。
ふわりと鼻腔を抜けていく苺の華やかな匂いと、喉奥まで震わせるような濃厚な味があっという間に溶けて消えていってしまう。
まるで夢だったかのように過ぎ去っていった甘さにとろりと目尻を下げて、相楽は無意識に緩んだ口許に指を当てた。

「さすが、芸術とも呼ばれる至高の一品ですね。今まで食べたどのマカロンともレベルが違いすぎます。天使の羽のような軽さと、絶妙な甘さが」

「天使の羽、食ったこと有るのか?」

「パティシエ自らが食べ比べて選んだという国産の苺で作ったストロベリージャムが、隠し味になっているんですね。甘いだけではない、ほのかに口に広がる酸っぱさ。はっと目を覚まさせるような鮮烈な」

「やっぱり寝てたんじゃねぇか」

「いちいち突っ込まないでください」


ちらりと篠原を睨めば、呆れ顔で腰に片手を当てている彼と目が合う。
暫し彼を見つめていた相楽は、片眉を下げて首を傾げた。


「……どうして、マカロン?」

を、くれたんですか。


という問いなのだが、最後まで言わずとも、篠原は察してくれたらしい。

このマカロンは、相楽が目の前で「おあずけ」を喰らった一品だ。
パーティー会場に入れなかった相楽は、食べられるはずの無かったものだというのに。


不思議そうに見つめる相楽に、篠原は呆れ顔のまま目を逸らし、大きな溜め息を吐き出す。


「木立が五月蝿かったからな」

「木立さんが……?」

「可哀想だの、お土産に何か貰っていきましょうだの、自分が相楽と代わるからだの、あいつはお前に甘すぎる」

「……それで、マカロンを……」


ポツリと呟いて頷けば、篠原は不愉快そうに眉根を寄せて見下ろしてくる。


「総司令の前でいつまでも騒がせているわけにもいかないだろ」
「……」

ジッと篠原を見上げれば、怪訝に顔を顰める。
それを確認した相楽は、思わず口許を緩めてしまった。


「……だからって、わざわざ持ってきてくれるあたり、篠原さんも充分甘いと思いませんか?」

「はぁ?」

「何でもありません」


まだ緩んでいる口許を片手で隠して、首を振る。
ぐっと先程より深く眉を寄せている篠原を横目で見てから、手で隠したままの口を更に緩ませてしまった。


「……機嫌は直ったのか」

不意に問われ、口許を隠していた手を下ろして首を傾げると、篠原は小さく息を吐く。


「まだ、腕は痛いか」

「いえ……、あの」

篠原の視線が、負傷していた左腕に移動してからすぐに離れていった。
それに気付いた相楽が目を丸めて口を開くと、やはり怪訝な表情が返って来る。

「もう、大丈夫ですから。痛くも無いし、風早先生からも、任務に出ていいって言われてます」

「……そうか」


ならいい。と素っ気無く返し、篠原は視線を下げて目を逸らす。
暫し彼を見上げていた相楽は、また無意識に緩んでしまった口許を無理矢理に引き締めた。

視界の端でふわふわと口端を歪ませては引き締めることを繰り返す相楽に、篠原は怪訝に眉を寄せる。

けれど、どうしても相楽は、今にも浮かれてしまいそうな感情を上手く隠せなかった。




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あきゅろす。
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