Story-Teller
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頭が痛い……
ソファーの背にゆっくりと体を沈めて見上げた天井では、シャンデリアがぎらぎらと攻撃的に輝いている。
手の甲で目を擦って息を吐き出すと、胸に残る違和感だけがはっきりと浮き上がった。



男性の言葉の意味が、うまく吸収できていない。
耳に入ってきた全ての言葉を憶えているのに、節々に感じた不快感が棘となって、消化不良を起こしている。


恐らく男性は、相楽にそう感じさせるために、あえてあの言葉を選んだ。
終始楽しげな中に感じていたのは、薄く溶けてしまいそうなほどに微かな敵意だったからだ。
あの笑みの中に上手く隠したつもりだったのかもしれないが、その敵意を判別する任務に着いて神経を尖らせていた相楽は、はっきりと感じ取ってしまった。


……いや、もしかしたら、相楽に敵意を悟らせたことも、意図的だったのかもしれない。
隠しているように見せて、目は挑発的過ぎたから。


けれど、相楽に向ける笑みは仮面を被ったように喜の感情を貼り付けていた。
曖昧で複雑な男性の真意を、相楽は掴むことが出来なかった。


どこまでも理解ができない。
何も、一つも。
一番大きな違和感を得たあの言葉が、ぐるぐると何度も何度も頭の中で反復されている。



「『しっかり、見ているんだよ』……」
「わかってるんだったら仕事しろ、馬鹿者が」
「いっ?!」

唐突に背後から伸びてきた手が、問答無用で相楽の右頬を捻りあげる。

一気に覚醒すると同時に、懐かしくも爆発的な激痛が顔面を襲い、相楽は声にならない悲鳴を漏らした。
負傷してからの約一ヶ月間は感じなかった、顔面を引き千切るような激痛だ。懐かしさに浸る余裕も無い、命の危険すら感じるほどの痛みに、悶々と膨らんでいた違和感すら捻じ伏せられてしまう。

こんなことをする犯人は、一人しかいない。


「いいいだい゛! いだい! 篠原さん!」
「起きたか」

頬をしっかりと摘んで固定する骨太な指先を払いのけて振り返ると、切れ長の目が見下ろしている。
その目は呆れたように細められていて、相楽はぐっと唇を噛んだ。

「指揮官が現場を離れていいんですか」
「定期的に様子を見に来ないと任務ほったらかしで寝るやつがいるかもしれないからな」
「寝てませんけど」

負けじと相楽が目を細めて見上げた先で、篠原は、くっと片眉を上げる。
ちらりとフロントを見てから相楽へと視線を戻した篠原の目は、咎めるように鋭さを増していた。
その視線だけで、相楽は慌ててソファーに座り直し背を伸ばす。

「パーティーが終わるまで気を抜くな」
「……すみませんでした」

素直に頭を下げた相楽に、篠原は小さく溜め息を吐き出してから、首を振った。

「相楽、口開け」
「口?」
「いいから開けろ」

呆れたような声に相楽は窺う視線を投げるが、篠原はさっさと視線を逸らしてしまう。

怒られるのだろうか。
口を開いた瞬間に顎を引き千切るつもりだろうか。
何が恐ろしいかと言うと、篠原ならやりかねない、という事実なのだが。

考えている間にも、篠原の怒気は膨れるかもしれない。
何度か躊躇した後、相楽は恐る恐る口を開いた。




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