Story-Teller
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「……そんな警戒した目をされると、少し傷つくよ」

男性の言葉に、相楽は怪訝な目を向けた。
ふっと微笑んだ男性は、困ったように眉を下げる。

「僕は気になるんだ。
 これから、UCを取り巻くモノがどう変わっていくのか。そしてUCがどう使われていくのか。
 純粋に探究心が旺盛なだけなんだよ。気を悪くしたならすまないね」
「……あなたの言うことは、きっと間違いでは無いんでしょう」

ぽつりと相楽が返すと、男性は微かに首を横に傾げてから、なに? と先を促す。

「間違いでは無いけれど、俺は違うと思う」
「どういう事かな?」

にこりと笑って、男性はソファーに座ったまま身を乗り出してくる。
楽しげな笑みが至近距離にあることに一瞬怯んだ相楽は、小さく息を吐き出して首を横に振った。
一度目を伏せてから、真っ直ぐに男性を見る。
その視線に批難の色を含めると、男性は一層楽しげに目許を緩めた。

「……少なくとも俺達は……『ファースト・フォース』は、簡単な好奇心や何かで命を懸けてUCを守ってるわけじゃないから」

はっきりと告げる。
大きく目を見開いた男性は、それからくすくすと軽快な笑い声を発した。

「そうだね。だからこそ僕は、キミ達ファースト・フォースにも大いに興味が有るんだ」
「……」
「ただ、『誰かのために』。ただ、『この国のために』。
 UCを通して、ファースト・フォースは『国』という大きな個体を守ろうとしている。
 そしてその姿は多くの人の心を掴む。
 ひたむきであり、何者にも屈さない強靭な精神の持ち主達に、誰もが憧れる。
 あまりにも崇高な部隊だ。僕には、なにがそれ程に君達を、その果敢な願いに奮い立たせるのかがわからない」

すらすらと男性の口から流れ出てくる言葉は、気味が悪くなるような賛辞だ。
相楽が何か言いたげに口を開くと同時に、男性は「だから」と声を低める。

「だからこそ、その末路を見てみたくなる。ファースト・フォースという、UCと寄り添う様に成長していく部隊の最後を」
「―何を、言ってるんですか……?」

咄嗟に目尻を吊り上げると、男性はふっと微笑んで立ち上がる。黒いコートがばさりと視界を覆うように広がった。
半ば睨む様にして男性を見上げた相楽は、男性の金色の髪がシャンデリアの明かりを反射させていることに気付いて目を細める。
きらきらと輝く金髪を無造作に翻した男性は、肩越しに相楽へと振り返って笑っていた。

「仕事の前にキミと話せて良かったよ。とても楽しかった」
「待ってください」
「ごめんね、僕もキミともっと話したいんだけれど……
 そろそろ待ち合わせの時間なんだ。行かなきゃ、僕の部下たちに怒られてしまう」

困ったように眉尻を下げる男性を引きとめようとした相楽に、柔らかな笑い声が振ってくる。
くすくすと陽気に笑う男性は片手をひらりと横に振り、それから小さく口を開いた。



その声は、ロビーに静かに響いていた。
決して大きな声だったわけではない。
それなのに凛と、まるで空間を引き裂いたかのように、彼の言葉が重く鋭く相楽へと刺さっていた。


『―しっかり見ているんだよ』と、ただ、一言だけ。





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