Story-Teller
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「そう。昔々に、とっても怖くて危ない物だから使っちゃ駄目って決められたエネルギーの代わりだ。
 『それ』は、一般家庭の電力も補っていた。
 『それ』による発電の供給量は各種のエネルギーの内、三割を占めていた。大事な人類の光だったんだよ。
 けれど同時に『それ』は、一瞬で人類の命を断つ兵器でもあった」
「……」
「あまりにも危険で、実際に多くの人を苦しめて恐怖に落としてしまったから、『人類の光』であっても排除されてしまった。
 各国で撤廃法が成立されて、二十年の間でほぼ全ての国から『それ』は消え去った。
 正直、『それ』を完全に世界から取り除くなんて無理だと思われていたんだよ。だって皆、使い方は違えども『それ』を重宝していたから。
 公にはされないけれど、撤廃法が成立された後も密かに研究を続けていた国は多かっただろう。
 それ程に必要とされていたのに、どうして撤廃へと動いたのか……わかる?」

唐突な問いに、黙って聞いていた相楽が咄嗟に首を横に振れば、男性はくすりと口元だけで微笑んで、また口を開いた。

「全世界で廃止運動とそれに伴う大規模なストライキが続発する少し前から、人体に対してあまりにも被害が大きい事件が続いたからだ。
 発電所からの放射線物質の漏洩による人体と土壌、水質の深刻な汚染。汚染されていることが明らかであったにも関わらず、政府はそれを隠し続け、結果多くの人が犯されてしまった。
 『それ』を利用した兵器を使った戦争はその地を向こう何年も荒廃させてしまうし、実際に『それ』で作られた爆弾が投下された国もある。
 『それ』を求めるほどに、人間は己らを自らによって退廃させてしまう。
 故に、『それ』は撤廃されるべきだった。
 そして表面上は、全世界から排除された。
 だからこそ今、『それ』と同じかそれ以上のエネルギーを秘めていて規則を犯すこともないUCを、堂々と『それ』の代わりに据え置いた」

男性は静かに静かに言う。
相楽の相槌など、実は求めてなどいないのかもしれない。ただ、彼が話したいだけのようでもある。
相楽に何かを伝えたいという意志が感じられない一人語りの中に、まるで怒りのようなピリピリとした緊張感を含ませる男性に、相楽はただ口を閉ざすしか出来なかった。



先程から妙に、周囲が静かだと思っていた。
僅かに視線を動かしてロビーを確認してみるが、先程までは疎らにいた宿泊客が今は一人も確認できない。
物音の無いシンとした中でするすると流れて行く男性の言葉は、酷く狂気染みていた。
その口から流れ出る言葉を、一つも聞き逃してはいけないという脅迫感すら覚える。
相楽が緊張したようにこくりと唾を飲み込むと、男性は不気味なほどに綺麗に笑ってみせた。


「……けれど、UCはあまりにも不安定だ。
 誰一人としてUCが完全に安全なものだという確証を持っていないのに、それどころか、また人類を苦しめる兵器と成るであろう物なのに、どうしてか皆、UCを光だと言って求めている」

組んでいた足をゆっくりと地に降ろして、男性は細く長い息を吐き出した。

「だけど、その気持ちはよく解る。僕だって同じだ」
「……何が」

緊張した声で相楽が問えば、男性はこちらに視線を寄越した。
その目がまるで腹を空かせた獣のように鋭い眼光で相楽を捉え、そして緩やかに笑みの形へと変わっていく。
ぞくりと背筋が震える感覚に、相楽は再度口を閉ざした。


「同じだ。『知らない』から欲しくなる。
 『知らない』から触りたくなる。
 『知らない』から自分の手許に置いてみたくなる。
 だって、『知らない』から。それがどれほど自分を侵すものなのか解らないから。
 今UCを奪い合っている国と民間だって、誰もがUCに触れたくて触れたくて仕方がないだけなんだ」

言ってくすくすと軽やかに笑った男性に、相楽は膝の上に乗せていた手をギュッと握り締めた。





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