「キミは、どうしてUCがUCという名称で呼ばれているか知っている?」
問う声が、愉快そうに跳ねている。
相楽は質問の意図を探ろうと暫し考え込んでから、小さく口を開いた。
「……"Unknown Crystal "を縮めてUCと呼びます」
「正解。だけど、模範的過ぎる答えだ」
相楽に向けていた指をパチンと鳴らして、男性は笑う。
UCの正式名称が"Unknown Crystal (アンノウン・クリスタル) "である事は、常識だ。
どうしてそんな事を聞くのだろう、とやはり質問の真意が掴めないままの相楽は眉根をきつく寄せた。
「全世界の政府がUCを『アンノウン』だと言っている。それを誰一人訂正しようとしない。だって結局、UCはまだまだ未知の物だから」
「……」
「ねぇ、おかしいよね? だって、UCは『人類を救うもの』として政府が守ろうとしている物なんだよ?
それなのに、アンノウンなんて言ってさ。未知の物でしかないのに、どうして『人類を救うもの』なんて言ってるんだろうね」
くすくすと笑う男性に、眉間の皺が一層深くなる。
先を促すように視線を遣れば、男性の笑い声は殊更楽しげにロビーに響いた。
「今はまだUCは実用化されていないけれど、早ければ三年後には家庭の電力を補うエネルギーとして広まっていくのだろうね。
UCを作り出した偉大なる人達の言うとおりに使うだけなら、UCは確かに『人類に差した希望の光』だ」
相楽達ファースト・フォースが先頭を切って回収に当たっているUCは、今はまだ厳重に保管されていて、エネルギー源としての使用はされていない。
何万回もUCを使ったエネルギー供給のテストを行っているが、概ね成功を重ねているという。
来年にはUC発電所が各地に建設され、再来年には一般家庭へのUCによる電力の供給が行われるらしい。
幾度もニュースや新聞で見た常識だ。
UCが本当の意味で『人類を救う』のも、もうすぐ間近のこと。
どうして、今さら男性はそんな事を楽しげに話すのだろう。
相楽の怪訝な表情に気付いた男性はふっと笑みを消し、真正面から相楽を見つめる。
薄い唇が、ゆっくりと動いて囁く。
「UCは、未知のものだ。例えUCが人類のエネルギー不足を救おうとも、UCと呼ばれているうちはずっと、アンノウンであることに変わりはない」
「……なにを言いたいんですか……?」
思わず問う。
意図の掴めぬ男性の話に痺れを切らした相楽が身を乗り出せば、男性のグレーの瞳がすっと細められていった。
口角を引き上げてはいるが、先程までの笑みとは違う。
ひやりとした男性の視線に、負けじと相楽は彼を見つめ返す。
「UCは、人類の光ではない。政府はそれを知っているから、UCと呼び続けているんだ」
「……」
「UCを欲しがる人間は沢山いる。今はもう全世界から排除されてしまったエネルギーの代わりに為り得る、唯一の物質だから」
「……代わり……?」
非難めいた声で発された相楽の相槌を受けた男性は、ゆっくりと息を吸い込んだ。
長い時間を掛けた深呼吸の後、相楽に向けられるのは、どこか侮蔑を含んだ鋭い眼差しだった。