Story-Teller
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「高山さんの……」

相楽が思わずそう呟けば、深い緑色をした瞳が大きく開いてから、また笑みの形に緩んだ。

ショッピングモールの駐車場で、高山と話すのを遠目で見ていたときと同じだ。
まるでこの男性だけが別の世界にいるかのような、奇妙な錯覚。
今確かに相楽の目の前にいて、同じ空気を吸っているはずなのに、どうしてか彼からは現実味を感じない。

容姿が精巧なフランス人形のように整っているから。と、それだけではない。
彼の纏う空気が、他とは違う気がするのだ。
彼だけが、ここではない静かで冷たい場所に佇んでいるかのように、その場で浮いてしまっている。

幽霊を見たみたいだ、とあの時も思った。そして、今も。
ここには居ないものを薄い膜を透かして見ているような感覚に、相楽はごくんと大きく息を飲んだ。




「やっぱりあの時、目が合っていたんだね」

にこりと笑って男性が言う。
暫し返答に困った相楽は、素直に頷いた。すると男性は殊更嬉しそうに微笑んでみせる。

「良かった。声を掛けてはみたけれど、僕の事を知らなかったらって不安だったから。安心した」
「……貴方も、今夜のイベントの参加者ですか?」
「まあ、そういう感じかな」

相楽がおずおずと問えば、微笑を崩さずに男性は返した。
咄嗟に彼を頭から爪先までチェックすると、その視線に気付いた男性はふふ、と柔らかく声を上げて笑う。

「そっか、君はここで不審者が居ないか見張っているんだ? 流石ファースト・フォースだ。突然の任務でも徹底してる」

目を丸めて男性を見つめれば、男性は相楽と向かい合うようにソファーに腰掛け、くすくすと笑いを漏らした。
感覚がおかしくなりそうな不思議な空気を纏っている男性は、己がどれだけ稀有な存在感を持っているのかを自覚していないかのように、自然に笑ってみせる。
それが一層、相楽を戸惑わせていた。
彼が何者なのか計ることができない。

「どんな任務にも、全力で臨む。どんな組織よりもテロリストへの警戒を怠っていない。
 それでこそ、UC防衛軍と国家の宝だよね。流石、『国内最強の戦闘集団ファースト・フォース』。
 キミ達がいるから、反UC派との小競り合いを重ねていても国は崩れないでいられる」
「……貴方も、軍の関係者なんですか……?」
「どうだろう。関係者と言えばそうかもしれないけれど」

ファースト・フォースについて語る饒舌さとは対称的に曖昧に返して、男性は長い足を悠然と組む。
この一流のホテルの煌びやかな雰囲気の中で相楽とは違う『場違い感』のある彼に、じっと視線を投げた。

闇に溶けてしまいそうな漆黒のロングコートが、シャンデリアのライトを浴びてヌラヌラと輝いていた。どこか不気味なその艶めきに、どうしてか目は奪われてしまう。
男性は、コートと同じ色のグローブを着けた長い指で金色の髪を無造作に掻き上げた。指の間からサラサラと金色が零れ落ちる。


「ボクはUCに大いに興味がある。そして、キミ達ファースト・フォースにも」
「……どういう事ですか?」
「UCもファースト・フォースも、未完成だ。まだ限界を知らないから、非常に面白い」

髪を掻き上げた手で、男性は相楽を指差す。その指がこちらに向くと同時に、相楽は知らずに体が緊張するのを感じていた。
まるで銃口を向けられているような危機感が、じわじわと足から這い上がってくる。

緩やかに口角を引き上げる男性に、相楽はゆっくりと背筋を正した。




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あきゅろす。
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