Story-Teller
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「この役目、関でも木立さんでも良かったんじゃないですか? なんで俺が……」

『関は、根本的に注意力が足りない。テロリストの制圧には向いているが、それ以前に『黒』か『白』かの判断が出来ない可能性がある。木立は勘も目も良いが、戦闘員じゃない。制圧するには苦戦するだろうな』

「篠原さんだっているじゃないですか」

『指揮官が現場を離れろって?』

「……酷い。メンバーを決める時点で、俺が見張り役だって決まってたんじゃないですか、やっぱり」
『お前の勘の良さと戦闘員としての能力を買ってやったんだろ』

「口ばっかり……もういいです」


飄々とした態度で返してくる篠原の声に一層眉間に皺を寄せて、相楽は大きな溜め息を吐き出した。
最後にもう一度「嘘つき」と恨みがましい声で呟いてから、通信を切る。
インカムから聞こえていた微かな機械音がぷつりと途切れると同時に、相楽は半ば睨むようにしてホテルの入口へと視線を向けた。




『絶品スイーツに惹かれた』というのが、この任務に積極的になった一番の理由だったが、もう一つだけ付け足すならば、『ようやくまた皆と任務に出られるようになった』という安堵が根底にはあったからだ。

反UC派の制圧中に左腕を負傷してから、三週間目。
まだ違和感は感じるもののリハビリの甲斐があってか、風早医師の診断よりも早く回復していた。
もうすぐ任務に出られる。
そう思っただけで、酷く安心した。足手纏いは嫌だ。

だからこそ、篠原が任務のメンバーに相楽を組み込んだことに酷く安堵したのだ。
戻ってこられた、と。



それなのに、ソファーに座って人間観察。
テロリストが必ず来るとは限らないのだから、パーティーが終わるまでずっとここでこうしてダラダラ座っているだけかもしれない任務だ。
これでは、雑用をしていた時と大して変わらない。




何度目かの大きな溜め息を吐き出した相楽は、音もなく開閉する自動ドアを睨む。

ちらりと腕時計で時間を確認すれば、パーティーが始まってから二十分ほど経った頃だ。
先程までは、着飾った婦人や上質なスーツを纏った紳士達が行き来していたが、それも少なくなっている。

パーティーが始まる前までは大勢の参加者がフロントを通り過ぎていき、相楽の『危険探知』の能力もフル活用されていたが、それもそろそろ役目終了だろう。
これ以降は、ホテルの宿泊客が疎らに入ってくるだけだ。
ピリピリと緊張している必要は無くなるが、そうなると一層、自分が役に立っているのか不安になってくる。



「……あー……」


小さく呻いて天井を仰ぎ、柔らかすぎるソファーにぐったりと身を預けて唇を噛み締めた。







「こんばんわ」

ぼんやりと霞んでいたその視界に、ほんの一瞬だけ、目が覚めるような金色が紛れ込んだ。
びくりと大袈裟に体を震わせて、背凭れから身を離す。

何の前触れも無く視界に入り込んだ人型に、相楽は大きく目を丸めて身を捩った。すると丁度背後から相楽を覗き込むようにして立っていた人物の姿を、はっきりと捉える。
相楽の視界に己が映ったことを確認するようにひらりと片手を振って見せたその人物は、ゆっくりと目許を弧に緩めて微笑んだ。


「驚かせてしまったんだね。ごめん」


穏やかな口調で発された低音に、ごくりと息を飲む。
相楽の視線を真っ当に受け止めながら、その人物はソファーを回り込んで、相楽の真正面に立った。


唐突に現れたその人物を、相楽は、見たことがある。

シャンデリアの明るい光の下できらきらと輝く、肩までの長さの細い金色の髪。
真っ白な肌の、日本人離れした鼻筋の高い整った顔。
華奢な体が纏う上質の生地で仕立てられた艶やかな黒色のロングコートは、どこか浮世離れした印象を与えている。


美しい顔でふわりと微笑むその男性は、相楽が反UC派と交戦したあの時、高山と共にいた人物だった。





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あきゅろす。
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