Story-Teller
3.この熱は消えぬまま



乱暴に開けられたジープの扉から、転がり落ちるように這い出たのは木立だ。
顔面蒼白。今にも吐き出してしまいそうなのか、必死に両手で口元を押さえている木立は、舗装されていない砂利道の上を、這いずっている。
慌ててその後を追った関も、顔色は最悪だ。目は微かに潤んでいて、砂利の上で蹲る木立が遂に吐き出すと、それに釣られたようにしゃがみ込んでしまった。

ジープの助手席でその一連を見ていた篠原も、くらくらと眩暈がしていた。どうにか指先でこめかみを押さえて堪えてから、小さなため息と共に隣でハンドルを握ったままの最年少を眺める。

激しい嗚咽を漏らす木立と関の背中を心配そうに見つめている相楽は、泣きそうな顔をしていた。
無理もない。ほぼど素人の運転に果敢に挑戦した結果、二人の犠牲者を出してしまったからだ。

何が酷いかというと、まず、スピードを出し過ぎだった。
最初のうちは、「スピード狂かよ」と茶化して笑っていた関と木立が、次第に無口になっていく。
ふらふらと左右に揺れるハンドル捌き。
何度も小刻みに踏むブレーキ。
その度に前後左右に揺れる車内。
脳内も、臓内も、余すところなく振られた同乗者達の顔色は血の気を失っていった。

ようやく目的地に着いた頃には、すでに体力の殆どを削られていたようで、元々乗り物酔いもしない関ですら、ひ弱な木立と共に体内のものを吐き出している。
篠原も例外ではない。
車酔いなど、十数年ぶりのことだ。
身体中が酷く熱を持ち、頭痛が襲ってくる。まるで風邪を引いたような体調不良が襲ってくるのをグッと眉間に力を入れて遣り過す。
やはり、出発の前に運転を変わるべきだったと、今さらの後悔を飲み込んでから、再度相楽へと視線を移した。
相変わらず、相楽は泣きそうだ。いつも仏頂面の彼が、こんなにも申し訳なさそうな顔をしているのは大変貴重だが、今はそれを繁々と眺めている時間はない。
初雪が降る前に、帰らなければいけないのだから。

「関、木立を頼む」

ジープを降りながら屈みこんだままの関に言えば、蒼白なままの彼はヘラリと苦笑を返してきた。
いつもなら率先して先頭を行く関だが、今回ばかりはここで待機した方がいいらしいと自分でも気付いていたらしい。

武器と計測器の一式を背負って歩き出せば、しゅんと頭を垂れたままの相楽が大人しく付いて来る。

冷たい風に打たれていても、篠原のうちに沸いた不快すぎるこの熱は消えぬままだ。
雪がどうこうではなく、とにかく早く帰りたい。

未だ痛んでいる頭をもう一度だけ指先で押さえて、篠原は足早に歩き出した。





[*前へ][次へ#]

4/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!