Story-Teller
2.ため息まで白い


相楽天は、乗り慣れないジープの運転席を何度も眺めてから、そっと息を吐き出した。
隣県までの運転は、相楽に任されている。
それが、僅かに憂鬱だった。

普段、移動の際は、相楽以外の誰かが運転席に座っていた。相楽自身も免許は持っているのだが、実際に運転したことは数える程しかないのだ。
いわば、初心者マークのペーパードライバー。そんな相楽に、いきなり一時間コースの運転メニューが回されてしまい、正直に言うと、数日前から胃が痛かった。

道はわかる。前に一度、篠原と一緒に行ったことがあるからだ。しかし、問題なのは運転技術だ。
今回任務に行くのは、運転手の相楽と、篠原、関、そして計測と解析を担当する木立の三人だ。
遠出の任務は大体このメンバーなのだが、いつも運転を担当するのは篠原だった。
それに気付いた関が、「たまには下っ端が運転したら?」などと傍迷惑なことを言い出したのが、相楽の運の尽きだ。
それに同調した桜井たちの押しを受けて、渋々頷いてしまったことを、今は激しく後悔している。

彼らは知らなかったのだ。相楽が運転初心者であることを。
入隊から早半年以上が経つのだが、いつもいつもいつもいつも、篠原に運転を任せていたことを、誰も知らない。とっくに運転も手慣れていると思っているらしい。

どうしよう。
どうしようもできない。運転するしかないのだ。

唯一止めてくれそうだった篠原も、昨日まであちこちの会議に出席していて多忙だったせいで、助けを求めることも出来なかった。

あと少しで、オフィスに隊員が集まる時刻だ。
今夜あたり雪が降るかもしれないほどの冷え込みに、吐き出した重いため息まで真っ白になっていた。





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