Story-Teller
XIV




「馬鹿か!」


辺りに響いた低音の怒声に肩が揺れる。
隣に立つ関も青ざめていた。


相楽より一足先に無事に木立に保護されていた関は、その後も相楽を探して駆け回っていたらしい。
相楽が篠原に連れられてバンへと戻ってきた時には、骨を折るのかというほどに抱き締められた。
しばし木立と関と共に、帰還した喜びを分かち合っていたのだが、篠原の怒声で現実に引き戻される。




「なんでそんなアナログなコンパスを持って行った?! 木立が専用のコンパスを用意して置いていただろうが!! 通信が遮断されていたのは仕方がないとしても、なんで無闇に動いた!! なんで、交戦した!! 一歩間違えれば死んでいたかもしれないんだぞ!!」


一呼吸もなく一気に吐き出された叱責は、何の反論も出来ない正当な怒りだった。
コンパスが使い物にならなかったのも、反UC派と交戦したのも、その結果、音に寄ってきた熊に追い掛けられて逃げ惑ったのも、明らかに自分達の浅はかさから来るからだ。
精鋭部隊として最低な判断を選んだ二人に、篠原が怒号を放つのは当たり前の反応だ。

すみませんでした、と関がはっきりと口を開いてから顔を上げる。


「全部俺のせいです。コンパスを持っていったのも、反UC派との交戦を誘ったのも俺の判断です。相楽は、俺に従っただけです」

「! 俺がコンパスを持たなかったのが悪い! 関のせいじゃ……」

「相楽は保護バッグとか、測定器とか、いろいろ持ってただろ? コンパスは俺が持つべきだった」

「でも、交戦したのは俺も同意の上だから!」


関は、一人で責任を負おうとしているようだった。
そんな関に慌てて反論するも、彼は真っ直ぐに篠原を見つめていて、折れる気は窺えない。


「関のせいじゃないのに……!」

「いい。黙れ」


どうにかしようと口を開いた相楽は、篠原の低い声に遮られて息を飲む。
縋るように篠原を見上げて首を横に振れば、返ってきたのは小さな溜め息だった。


「今回の件は、俺の監督不行届きだった。UCは無事に保護できたから大目に見てやる」


その言葉に、ほっとして肩から力が抜けた。
改めて「すみませんでした」と相楽が頭を下げれば、関も不満げな顔で一礼する。


「関、相楽、帰ろう」


篠原の怒号に後ずさって、後ろでおろおろと窺っていた木立が促す。
しばし何か言いたげに黙っていた関は、諦めたようにバンへと歩き出した。
篠原が運転席へと向かうのを見ながら、相楽は関を追い越して助手席のドアを開く。後部座席は、木立と関に譲ることにした。
相楽の初単独任務に付き合ってくれた関には身体を休めて欲しい、とさっさと助手席に座ってしまえば、やはり関は不満げだった。
どうしても相楽には責任を負わせたくなかったらしい。

関の不貞腐れた表情に、相楽は構わずにシートベルトを締めた。




[*前へ][次へ#]

14/17ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!