Story-Teller
XIII




「相楽!」


背後から聞こえてきた低い聞き慣れた声が、辺りに木々に反響した。
その声に弾かれたように、大きく身を反転させた相楽は、足場の無いその先に飛び込んだ。




ふわりと宙を浮く、不確かで気味の悪い嫌な感覚が襲った後、衝撃。

地面に叩きつけられるはずだった体が、固い腕と胸で抱き止められる。
相当な衝撃に怯みもせず抱き止めた相手は、相楽の体を抱き締めて覆うように抱え込んだ。
そのまま衝撃を受け流す様に二、三歩下がった彼が、静かに息を吐き出すのを感じる。
恐る恐る顔を上げれば、やはり見知った顔。


「なんで飛び降りるんだ……馬鹿か、お前は……」


呆れたように眉を寄せて静かに呟いたのは、篠原だった。
その姿を確認した途端に、目頭がじんわりと熱くなる。


「篠原さん……!」


呼ぶ声が震えてしまう。無意識に篠原の背中にぎゅっと腕を回すと、篠原が息を飲んで見下ろしてきた。


「どうした? 怪我したのか?」


いつもは高圧的な篠原にしては珍しい心配するような声色に、ふるふると首を横に振って答える。
首を振った拍子に堪えていた涙が目尻に流れて、それを隠すように篠原の鎖骨に顔を埋めた。
戸惑いがちに、篠原が頭を撫でるのが恥ずかしいのに顔は上げられなかった。
顔を上げれば、泣き顔を晒すという、もっと恥ずかしいことになるのがわかっていたからだ。


「……UC、見つけたのか」


小さく囁くような篠原の声にこくこくと頷けば、頭を撫でていた手がポンポンと落ち着かせるような調子へと変わる。


「よくやった。帰るぞ」


帰る、という言葉に一層目元が潤んだ。
篠原の柔らかな声色で告げられた任務の完了に、深い安堵だけが漏れる。

熊に追い掛けられて遭難して泣くなんて、我ながらガキ臭すぎて顔が熱い。こんなにも自分は子どもだったのかと恥かしくなる。
いつも厳しい篠原が何も言わずにいてくれるのは、そんな相楽のもろもろの戸惑いやらを感じ取っているからなのだろうか。
べそべそと目を濡らしている自分とは違って、やけに大人な上司に悔しさが募る。


それでも今は、甘えることにした。

篠原の体温が冷えた身体を暖めるのが心地好くて、背中に回したままの腕に無意識に力を込める。
そうすれば、篠原も強く抱き返してくれる。
不安を全て取り除いてくれる、落ち着くような暖かさだった。







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あきゅろす。
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