ゼンリョクシッソウ
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「…なんでいつもおしるこ買うんだ」

 ポツリと呟くと、スロット音に眉根を寄せている大地がおしるこ缶を手にして、ちらりと視線を向けてきた。

 熱々のおしるこ缶を素手では持たずに、パーカーの裾で包む様にしている。一度缶に視線を落とした大地は、ニッと快活に笑った。

「労働した後のこれが一番美味いんだよ」
「…バイトでもしてるのか?」

 自動販売機の横に座り込んだ大地に、目を細めながらも問う。カリカリと指先で缶のプルを引っ掻いていた大地は、首を捻って俺を見上げてきた。

「叔父さんが工場やってんだよ。そこで修行させてもらってんだ」
「修行?」
「精密機械とか、そういうの扱ってんの」

 微笑んだ大地に、吸い寄せられるように近付いた。ポン、と片手で自分の隣を叩く大地に誘われて、ゆっくりと腰を下ろす。

 コンクリートの上で胡坐を掻いた大地は、隣に並んだ俺に楽しそうに笑う。

「俺ね、技術士になりたいんだよ。だから工業高校に行ったんだけどさ、毎日色々学べて楽しいんだよね」
「…技術士って、何の?」
「でっかい事言うと、ロボットとかさ、メカニックっていうの?そういうのになりたい」

 へぇ。と軽く返して、思わず俺は足許を見つめた。

 同い年のこいつが、こんなにもしっかりと将来のことを考えて高校を選んでいたとは知らなかった。

 『なんとなく』偏差値の良い高校に進んだ自分とは、決定的な違いが大地にはある。自分がしたい事がはっきりと解っているのだ。

「とにかく今は勉強して、将来は奇跡の大発明なんかしてやる」

 そう意気込んだ大地の指先で、カシュ、と軽い音を立てておしるこ缶が開かれる。一口飲んでから、大地はそれをこちらに押し付けてきた。

 意味が解らずに眉を寄せて大地を睨めば、人懐こい笑みが返ってくる。

「寒いだろ?飲んだら?」
「…いらない。甘いの嫌いだし」
「えー、美味いのに。勿体無いな」

 言いながら、こくこくと喉を上下しておしるこを流し込む大地を横目で見てから、俺は小さく息を吐き出した。

 白い息だ。寒い。座り込んだコンクリートも冷たくて、体温が徐々に奪われていく。

 大地に百二十円を返したら、さっさと部屋に戻るつもりだったというのに、どうして誘われて座ってしまったんだろう。



 いつもと違う、非日常。


 無意識にそれを求めて、その温かさに魅せられて、だから、非日常を生み出してくれそうだった大地をわざわざ待っていたのだろうか。


 いっそ憐れになるほど、自分は寂しいやつなんだな。

 大地のように、毎日何かに打ち込んで、毎日新たな発見に胸を奮わせて、まっすぐに前を見ていることが羨ましくて、喉奥が熱くなった。




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