ヤドカリ




 この家は、雄大の母の両親…つまり、雄大の祖父母の家だ。



 市街地から、バスで四十分。
 東を見れば広がる田んぼ。
 西を見れば大海。
 北を見れば連山といった、絵に描いた様な田舎の中にある。


 二階建ての小じんまりとした青いトタン屋根の家屋であり、母が生まれ育った家でもあるここは、『昭和の家』といった様子で、もう築四十年以上は経っているらしい。


 ガラガラと立て付けの悪い引き戸の玄関を開くと、真正面には二階へ上がる急な階段が見える。


 中に入って左を見れば、元は祖父母が使っていた畳の寝室がある。
 今はそこが雄大の部屋になっている。


 右を見れば雄大と凪が寛いでいる居間があり、その奥へ進めば雄大が存分に活用している台所がある。
 シンクとガスコンロが有るだけの簡易な台所だ。
 家屋全体の古臭さとは相反して、大きくて多機能な冷蔵庫があったり、妙にカラフルな皿があったり、台所だけ近代化しているのが酷くアンバランスだった。


 台所の横には、控えめな広さの風呂場と手洗場が並んでいる。
 昔、この風呂場ででかいヤモリに出会ったことがある。一体どこから入り込んだのかは、今でも謎だ。


 階段を上がって二階へ行けば、左には嫁入り前の母が使っていた部屋がある。
 母が好きだったアイドルのポスターが色褪せた状態で貼られているのが妙に笑いを誘うので、そのままにしてあった。
 そこは今は雄大の教科書や本を置いておく書庫代わりになっている。


 右は、母の兄が使っていた部屋らしい。
 母がまだ学生時代に母の兄は上京してしまったが為に、この部屋はカランと何一つ無い寂しい部屋になっている。

 昨夜は凪がここに布団を敷いて眠った。
 重たいボストンバッグがその部屋に鎮座しているのを見る限り、この部屋に居座ろうとしているのだろう。



 この家には、思い入れがある。

 昔から何度もこの家に泊まりに来ていたし、この古さも嫌いでは無かった。

 ただ、年老いた祖父母には暮らし辛い家になってしまったらしい。
 急な階段も、市街地から遠い位置も。



 父の提案で、祖父母との二世帯住宅にすると決まった時、真っ先に浮かんだのはこの家の末路だった。

 家主の居なくなった古い家の未来など、なんとなくは予想がついていた。

 この家は、いつか壊されて無くなってしまうのだろう。




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あきゅろす。
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