ヤドカリ
6
「何がジンクスだよ。悪い宗教にでも入ったみたいに」
鈴井がコーラのボトルを捻りながら、そうこぼす。
ぷしゅ、と軽い音を立ててキャップを開いた鈴井は、忌々しそうに眉を寄せていた。
「まぁ、でも、城田先輩、美人になったよな」
「それはさ、元々城田先輩が美人だっただけであって、『あいつ』がいきなり先輩を美人に変えたってわけじゃないだろ」
「そうかな」
竹中が率直に城田先輩を褒めれば、鈴井は直ぐに否定的に返した。
それに対して、雄大は思わず呟いてしまう。
ハッとすれば、怪訝そうな鈴井の目がこちらを見ていた。
「なに? お前も藤真凪にキャーキャーしたいの?」
「なんでそうなるんだよ」
妙に苛立った鈴井の声に、今度は雄大が眉を顰めた。
友人とはいえ、彼の言い方は気分が悪い。
朝からずっとだ。藤真凪について、ぐちぐちと。
雄大が怒気を含ませたことに気付いたらしい鈴井は、小さな舌打ちを残して席を立った。
竹中が見上げて声を掛ければ、「購買行って来る」とだけ吐き捨てた。
「……七瀬らしくないね、こんな事で怒るなんて」
鈴井の後ろ姿を見送っていた竹中が、不思議そうに首を傾げてこちらを見た。
「鈴井が藤真の悪口ばっかり言ってるのなんて、いつもの事なのに」
「……そうだったか?」
言われてみれば、鈴井が口を開けば、流れ出てくるのは凪の悪口だった様な気がする。
いつもは聞き流していたのに、どうして今日はそれが出来なかったのだろうか。
空になった牛乳のパックを机に置いてから、小さく溜め息を吐いた。
悪口ばかりとはいえ、鈴井は凪について異常に詳しい。
なぜいきなり凪が雄大の家に来たのか相談してみようと思っていたのだが、止めた方がいいだろう。
これ以上鈴井に凪の話題を振れば、本格的な喧嘩に発展しそうな気がした。
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