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決裂の末 -psychology and truth- 本編
警戒

「容態は」
「_今のところは問題ありません」
「そうか。世話になったな。すまない」
「_いえ」

病院内に立ち込める独特な香りの中。
カルテのようなものを用いてやり取りをする碧音と医師らしきロボットの後ろで、待合席に座っている4人は沈黙を貫いていた。

4人が病院に到着した時には既に風雅は奥の治療室に運ばれ、処置を受けていた。
心配をしてほぼ乱狂状態になっていた暗乃を看護師らしきロボットがどうにか宥め、漸く落ち着いたところであった。

「待たせたな」
「…碧音さん」

医者と話が終わったのか、碧音は複雑な表情を浮かべて戻ってくる。
そのまま端に座っていたレヨの隣に腰を下ろして、紅からの呼び掛けに首を少しだけ傾けた。

「…風雅さん、大丈夫なんでしょうかね」

その場にいた全員が、この紅の発言が気休め程度のものだろうということは分かっていた。
大丈夫かどうかは医者の説明を受けないと定かにはならないし、兎に角沈黙に耐えられずに何か短い会話だけでもしたかったのだろう。
きっと大丈夫、良くなる。…そんな返答を返しては少しの安堵を与え、混乱しているこの場を和ませればいいという意図を持った発言だ。

「ああ。取り敢えずは…大丈夫だそうだ」

その意図を汲み取ったのか、空気を読んだ碧音が思惑通りの言葉を選んで返した。
心做しか暗乃の目に光が幾分か戻ってきたように感じる。

「…医師から聞いた話は、風雅の事だけではなかった」

碧音の発言に、下を向いていた4人全員が各々の早さで頭を上げた。

「人間を優先とした病室の手配。…ここ数年のベリタスじゃ有り得なかったことだ。違和感を覚えないか?」
「…確かに、頑なに人間とロボットの境界に線を引いていた世間では珍しいこともしますね…」

碧音の問いかけに唯一応答する紅。
人気がなく、"修理場"と称された病院に突然人間が入ってきたら、まずティスタの病院の方へと回されるだろうし、そもそも対立が激しい今の時世で人間の治療を容易く受け入れたのも些か不可思議に思われる。
しかしその奥底にある心理は、今の紅には理解出来そうになかった。
降参の意を示した紅を見て、碧音は話を続ける。


「病室を手配しろと命令を出したのは…紫音らしいんだ」


一瞬の沈黙を、

「えっ!?!?!?」

衛星中継の如く驚きが遅れて届いたフラムの驚愕を表した声が破壊した。

「フラム、うるせぇぞ」
「えっ、だってシオちゃんが…?ほら、やっぱりいい人なんだってば!ね、そうでしょ!?」
「…いい人かいい人でないかは今の問題ではない。…何故風雅が事故に巻き込まれたのか知っているかだ」

爆発音を感知し、瞬時に現場へ向かった紅ですら数分間の動きだったのだ。
しかも風雅の意識が途切れるまで_暗乃の通信機と繋がってた時間_を考えると、風雅は長らく放置されていた状態ではなかっただろう。
それまでの間に救急車を到着させ、病院へ運び、治療の準備をするのは事前に段取りを踏み込み、予測していないと不可能な程の早さだ。
詰まりは、その手配の命令をした紫音自身が、事故の現場に風雅がいる事を知っている…それどころか、事件について何か把握している可能性も出てくるはず。

「シオちゃんが何か知ってるってこと?」
「…そうだとしたら合点がいかない。我々特別隊を攻撃するのは紫音率いる秘密部隊が主だろう。彼奴らにとって俺らは忌々しい存在。なのに長である紫音が病院の手配をしていた。…その行動の意味が俺には分からない」

碧音の言う通り、秘密部隊にとって、人間とロボットが深く接触している特殊隊の存在は政府に対する反骨精神の塊であり、邪魔でしかない。
ほぼ全ての隊が人間に対していい思いを抱いていない訳だが、こんな直接的な攻撃は秘密部隊でしかやり得ないと考えが付く。



___「分からないかあ。…あのね、邪魔になるって言ったのは、"2人の能力よりも劣ってて足で纏いになるからやめよう"って言う訳じゃないんだよ。…勿論、そう言う意味も無くは無かったけれど」
「……?」
「…僕から…初期ベリタス特殊防衛隊隊員の僕から、情報をあげる」



___…僕の目を焼いたのは、"人類破滅計画"に参加している秘密部隊のロボットだ」



___「…分かってるよ。…やっぱりそいつが犯人か…紅と紅の同居人の住んでる家を燃やしたのも、お前の目を奪ったのも」
「そうだと思うよ。僕が抜けたのはそんなに昔じゃないし…きっと、またメンバーのうちの誰かが狙われる」



「…くそっ」

口汚く悪態を付く。その言葉しか出てこない。
フラムの言う通り、早く話し合うべきだったのか。
ワンダーから溢れる程の素晴らしい情報を貰って、ラティアンナに家族についての"何か"を教わって。

…それでも尚自分は変わらない。またメンバーを傷付けてしまった。

「碧音さん…」

自分を心配そうに見詰める隊のメンバー。
此奴らも、何れ俺の所為で…。

「…帰ろう」

此処じゃなくて、練習場に戻ろう。
そう提案したのはレヨだった。
緑の切り揃えられたショートボブを揺らして立ち上がり、金の瞳で碧音を見下ろす。

その瞳に哀れみの色も、強さもない。
そこには"ただの瞳"があった。

何事にも屈しないレヨの強さ…いや、強さと称するのは些か正しくはないだろう。しかし、彼女に従い練習場に戻り、今後について話し合うのが妥当ではないか。

風雅の意識が戻ったら連絡してくれ、と近くの医師に頼む。医師のロボットは無機質な声で畏まりました、と礼をした。

足元が覚束無い暗乃を紅が支えながら5人は病院を後にする。
…誰もがやり切れない思いに包まれていた。


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あきゅろす。
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