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決裂の末 -psychology and truth- 本編
白夜、音を奏でる-W-

「…」
「…な、何よ!泣いてるのがそんなに可笑しいの!?笑えばいいじゃない!」

何を自棄になっているのか、鈴音さんは顔を真っ赤に染め、立ち上がりもせずに尻餅をついた格好のままで僕にそう怒鳴った。
というかなんで泣いてるんだ、この人。

「…そんなに痛かった?」
「はあ?」
「いや、だから凄い勢いで転んだみたいだから…」
「はああああっ!?」
「えっ」

鈴音さんは大きな声を出しながら、これ以上は破裂してしまうのではないかと思えてしまう程顔を赤くして、先程の尻餅ついた時と同じくらいの勢いの良さで元気そうに立ち上がった。

「あ、あんたね…転んだくらいで泣いてちゃ陸上なんてやってられねーわよ!」
「ごめん…?」
「もう!聞いてた本人よりも関係ない私の方が傷付いてるの変なの!損した気分!」

…?

「傷付いた…?」

散らばった紙を拾い上げ、鈴音さんは怒ってるのか悲しんでいるのかよく分からない様子で尻餅をついた際に被害に遭った教室内の物の片付けを始めていた。

「…何よ。そうよ。先生の心無い言葉に何故かグサッと来たから」

鈴音さんは拾い上げた紙をボードに貼り付けている為どんな表情をしているか伺えない。別に伺う必要もないのだけれど。
…でも傷付いたとはどういう事なのか、その時の鈴音さんの心情は全く興味が無いわけではなかったし、僕には理解できないから気になった。

「なんで鈴音さんが傷付くの?」
「なんであんたは傷付かないの?」

振り向いた鈴音さんの頬には、もう涙の跡すら残っていない。

「だって自分の夢を批判されているんだよ?あんたの事だから昔いろいろあったんだし、人に言えない事だってあるだろうに…何も知らない人からああやって言われるの、嫌じゃない?」
「成程…?」
「何よ、なんでそこで考えるのよ…」

優しい、というのだろうか。

あれだけの会話でそこまで考えて自分まで泣く程傷付くとは…。

「僕にはそれが分からない…かも」
「はあ?」
「自分で決めた事なんだし…他人にどうこう言われても結局は自分の責任でしょ?その道が良かれ悪かれ選んだのは自分なんだし、それが他人に非難されたら自業自得だと思う他ないけれど」
「あんたって…すっごく強情ね」
「褒め言葉?」
「善し悪しどっちも含めてる」

僕の考え方は多分合っても間違ってもいない。
あの子と家族以外の人と全くと言っていいくらい関わってこなかった僕だから、人の考えを受け止めるのも少しばかり難題だ。

…鈴音さんは本当によく分からない。

「鈴音さんは僕が傷付くと思ったの?」
「そりゃ思うよ。私だったら泣いてるし」
「他人の夢否定されても泣くくらいだもんね」
「喧嘩売ってんの?」
「拳じゃ絶対勝てないからやめておく」

鈴音さんは、「麓と仲が良さそうだから」という理由で、先生から将来の事について聞き出すように言われていたらしい。

「そこまで問題視されるような事なのかな」
「そりゃあね。ロボットと人間の接触なんて考えられないっていうのが現状だし」
「ふーん…じゃあなんであんたは分かっててそんな仕事選ぶの?」
「なんでって…言いたくないってば。…強いて言えば、別に僕はロボットを嫌ってはいないから、かな?」
「…やっぱり分からないわ。あんたの考えてる事」
「僕も鈴音さんの考えてる事分からないよ」
「え?」

鈴音さんは振り返って僕を見た。
僕を見る鈴音さんは驚いた顔をしていた。

「どうしたの?」
「あんたがそんな事言うなんてって思って。ちょっと意外」
「どういう事?」
「他人の心が分かる分からない以前に興味すらなさそうだなって思ってたのよ」

鈴音さんはさっきよりも少し早口でそう言って、片付けを終えると同時に自分の座席へと駆け寄る。
そのまま視線を動く鈴音さんに合わせていると、彼女は座席から水筒を取り出して僕に顔を合わせた。

「何よ、さっきから…あんた帰るんじゃないの?」
「ん、帰るけど…」
「なんなのよ!調子狂うわね…いつもとなんか違うじゃない!」

鈴音さんが何を怒っているのかさっぱりだけれど、とりあえず僕はぼんやりと鈴音さんを観察するのをやめ、帰る支度をする。

「じゃあね」
「うん、またね」

鈴音さんと軽く挨拶を交わし、僕らは教室から出てそれぞれの目的地へと向かった。



* * *



「……」

板の間から脚を投げ出し、家を取り囲んでいる湖に浸らせて僕は考える。

…それは自分の夢の事。
それと、鈴音さんが泣いていた理由。

鈴音さんは僕の代わりに泣いた。

それは僕を庇っている訳じゃなくて、夢に向かって努力している人たちの代弁をしたかったからなのではないのか。
確かに僕もああは言ったけれど、多少腹立たしく思ってもいいくらいだとは思う。

それに、今日の鈴音さんはなんだか似ていた。

薄柿色の髪を持つあの子と。

見た目はそんなに似ている訳では無い。
しかし、あの良くも悪くも真っ直ぐなところが似ている。

そう思う事によって、よく分からなかった鈴音さんの事、少しは知る事ができるかもしれない。


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