決裂の末 -psychology and truth- 本編 桎梏 「ひ、秘密部隊…って…」 「賢い碧音は分かるよね?どうして僕の目が焼かれたか、どうして僕自身が狙われたか」 "人類破滅計画"。 レヨはその単語に聞き覚えはないが、「最近物騒な事件が続いている」という曖昧な情報は持ち合わせている。 何か関係があるのだろうか、と耳を傾ける。 「…俺らの活動趣旨が漏れてる?」 「ガッツリとね。レヨ、碧音達の隊が普通じゃないのって知ってる?」 「…特に人間に対して友好な隊だと聞いています」 「…っ」 「あー、碧音が照れてる!えへへ、ここでしちゃ危ない話だから、僕の部屋においで」 最後の一言を小声で言い、何故だかばつの悪そうな顔をする碧音を引きずりながら部屋へと向かうワンダー。 2人の関係の中ではなんでもありなのだろうかと思いながら、レヨはその背中を追いかけた。 * * * 「いらっしゃーい!えへへ、ここが僕の部屋だよ!」 ジャーンと効果音が聴こえてきそうなワンダーの仕草と共に、レヨは失礼にならない程度に部屋を見渡す。恥ずかしながら男子の部屋に入るのはこれが初めてである。 複数のパソコン、ギター、ベース、電子ピアノ。 他にも数々の楽器と楽曲制作用と見られる用具が揃っていた。 部屋の持ち主は、申し訳なさ程度に置かれているベッドに座り込み、 「あ、その辺適当に座っていいよ…誰かを呼ぶなんて久しぶりだから緊張しちゃうなあ」 と、全く緊張感がない笑顔で言う。 「…ワンダー、話を戻してもらってもいいか?」 「あ、そうだそうだ。…まあ、人類破滅計画の秘密部隊…は、ロボットと人間の関係を友好にする為に格差社会意識を持ち出して人間を嫌いになる風潮を促す奴らをこてんぱんにするっていう僕たちの計画…を知ってたみたいだ」 「…そうか…誰が漏らしたんだ…いや、誰かが知ってたのか?」 紅、フラム、そしてワンダー。 このうちの誰かか?…いや、皆そんなことするはずがない。 …碧音はこの3人以外に、"もう1人の選択肢を持っている"。 それはワンダーも察しているようで、碧音を鋭く見詰める。 「……」 「碧音」 「…………」 「碧音」 「…………………」 「あ・お・と!」 「…分かってるよ。…やっぱりそいつが犯人か…紅と紅の同居人の住んでる家を燃やしたのも、お前の目を奪ったのも」 「そうだと思うよ。僕が抜けたのはそんなに昔じゃないし…きっと、また…」 「「メンバーのうちの誰かが狙われる」」 同時に言葉を放つ2人。 放った後、またもや同時に置行堀のレヨに気付く。 「…レヨ、やっぱり危険だ。お前だけじゃなくて暗乃も風雅も」 「そうみたいですね」 「だろ?だから、もう…」 「…その、秘密部隊を討伐するっていう選択肢はないんですか?」 塔の時と同じ様な猪突猛進的なレヨの言葉に、再び碧音は呆れの表情を見せる。 「あのなあ…無理に決まってるだろ?大体あ…じゃなくて、その…結構強い奴がたくさんいるんだぞ?俺よりも遥かに強い奴がわんさかと」 「それじゃあ碧音さんはやられたまま死んでいくのでいいんですか?紅ちゃんやフラムも、私たちと同じ様に逃がすんですか?」 「……」 「隊の中だと私や鈴音先輩や麓先輩は頼りないかもしれません。でも、私達はもう隊の一員ですから。碧音さんが止めに行くというなら何が何でも付いて行きます」 「おおー!」 レヨがベリタスに来てから、何度目か分からない絶望に陥る顔をする碧音と対照的に、目を輝かせて拍手をするワンダー。 「そんな簡単に言うけどさ…もしレヨがそれで死んでしまったら?」 「それは別に構いません。だって私の職業ですから」 「…お前じゃなくて、暗乃が死んだら?」 「…それは…」 一瞬だけ悲しそうな顔をするレヨ。まるで"目の前で本当に人が死んでしまった光景を見てるかの様な"悲しみが刻まれていた。 「…鈴音先輩に聞かないと、分かりません。先輩は私と麓先輩に合わせて来た様な感じがします。私の我儘で、本当は先輩こそやりたい事があるけれど合わせてここに来てる様な気が」 「ふーん。…でもここに来た理由がちゃんと自分の意志なのか、それも暗乃に聞かないとわからないだろ」 「それは、そうですけれど」 「…よし。じゃあ随分時間も経ったし、一旦フラムと風雅のところに戻ろう。何処か人目のつかないところで皆で会議だ」 「碧音さん…」 「お、なんかいい感じにまとまったかな?」 2人が声のした方を見ると、悲しそうな笑顔でもなく、心の底からの笑顔でもなく、ただただ"スタンダードな"笑顔を向けるワンダーがいた。 「ああ。ワンダー、感謝するよ」 「いいえ。何かあったら言ってね」 「おう」 2人は拳を軽く、しかし友情を込めるように熱く交わした。 それを終えて、碧音とレヨはドアを開け、部屋の外に出る。 「お邪魔しました」 「ふふ。レヨもいつでも来てね!」 「ありがとうございます」 「ううん、あと敬語とか敬称とかなくしてほしいなあ」 「わかった。…ありがとう、ワンダー」 「えへへ。どうたしまして」 「…あ、そうそう、ワンダー」 距離を縮めたレヨとワンダーに割って入る碧音。 碧音はドアからひょっこりと顔を出して、まるで言い逃げる準備は万全だという様であった。 「ん、碧音?どうしたの?」 碧音は微かな期待を添えて、次の言葉を発する。 「お前、今日で人間と仲良くなるっていう夢叶ったぞ。良かったな」 「……………」 少しの間の静寂を経て、 「れ、レヨちゃんが人間ーーーー!?!?!?」 やはり期待通り驚いてくれた彼の声を背中に、2人は風雅とフラムのいる喫茶店へと向かった。 [return][next〕 [戻る] |