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決裂の末 -psychology and truth- 本編
6人

「えへへ…お騒がせしました」

アルビオン・ハウスの訓練所の待合室に、ほのぼのとした空気が流れる。

「本当だ…やれやれ」

出発時よりもボロボロになっている碧音とレヨの向かい合う形で座っている桃色の髪の女性。
先程のおぞましい姿とは掛け離れた、可愛らしい容姿をしている彼女は、レヨに向かって嬉々と話し始める。

「初めまして!私、紅っていいます…!この度は助けていただきありがとうごさいましたです!えっと、新メンバーさんですか?」
「どうも。幸月怜夜です。…見学というか…体験、みたいな感じです」
「コウツキレヨさん!体験!?あんな危険な塔の奥までなんて…勇気ありますね!」
「そ、それほどでも…」
「コウツキレヨさん、迷ってるなら是非私たちの隊に入りましょうよ!ね、碧音さん!」
「ちょっと待てよ、紅。レヨはまだ14歳の人間だ。今年義務教育を終える年だとしてもこんな危険な事させられるか?」
「にっ、人間さん…!?」

冷静な碧音の言葉に、エンジン全開だった紅がうーん、と唸る。

「人間さんですか…人間さん、人間さんか…」
「…あの、私…仕事が出来るなら隊に入ります」
「は…?」
「えっ…本当ですか!?」
「そのつもりで、来たので」

それに、と続けるレヨ。
呆れと驚愕を抑えきれないのか、口を開けたままの間抜けた表情でレヨを凝視する碧音。

「…それに、魔物の正体が未練の具現化したものなら、私はその原因を知りたい。ロボットと人間の関係…後、どうして黒髪黒瞳なんてルールが出来たのか…とか」
「……」
「それに、私…この国に探してる人がいて。その人がここにいるかもしれないし、今一緒に住んでいる人にも迷惑はかけられないし…。だから」
「…レヨちん、その志、いいね!!!!!」

3人以外に発された声の方向に一斉に振り向く。
そこには、社会見学に行っていたフラムと暗乃と風雅がいた。

「フラムさん!」
「紅ちゃーーん!!良かったー!もう!ばか!!!」

抱き合って再会を喜ぶフラムと紅。
あまりの騒がしさに、近くで訓練をしていたロボットたちがこちらを向いたが、騒ぐ声の主がフラムと紅だと確認すると興味がなさそうにすぐに自身の訓練に没頭し始めた。

「レヨ、無事で良かったわ…」
「どうだった?ちゃんと紅さん、っていう人は救えたみたいだけれど」
「鈴音先輩、麓先輩…大丈夫です。割と進めました。碧音さんのお陰です」

レヨたちも互いの安否を確認して安堵する。

「それでレヨ…あなたはこの隊に入ってしまうの?」
「鈴音先輩…」

暗乃は心配そうにレヨを見詰める。しかし彼女が見たレヨの瞳は、決意に満ちていた。

「ふう…仕方ないなー!そんなに心配なら、皆この隊に入っちゃえばー!?」
「…へ?」
「えっ!?」

フラムの突拍子もない発言にその場にいる全員が驚く。

「…でも、私と風雅は学校があるし…」
「うーん。僕は運動できないし、力にはなれなさそうだしなあ」
「だーいじょーぶ!!訓練はいつも午後からだし、学校と行き来はちょっと大変だけれど…ね、紅ちゃん?」
「そうですね!人間さんがフィールド外に出るのは前代未聞ですが魔物は割と人間さんでも簡単に倒せます!それに、戦うだけじゃなくて知識も必要だし…戦いに挑む時フィールド外に行けない方は通信して指示も出せますしね」
「そうそう!なんならベリタスに引っ越してきていいし!フラムはハウスじゃなくて住宅地にお家があるから皆泊まれるし!楽しそう!」

盛り上がる紅とフラム。
その勢いに圧倒されて2人の心は揺れる。
しかし、その揺らめきは碧音によって秘かに小さくなる。

「…ちょっと待てよ。ベリタスには人間が嫌いなロボットだっているんだ。そんなトントン拍子に話が進んでもそこの2人だって困るだろ」

多くの人間が一方的にロボットに対して不満を持っているのと同時に、多くのロボットも人間を疎遠に扱っているのも事実だ。
隊長の最もな発言に紅とフラムは押し黙る。



「…僕は、ベリタスに来る前レヨちゃんにも暗乃にも言ったけれど、将来ロボットについてとか、テクノロジーな文化を学んでそういった系統の仕事に就きたい。そのために歴史とか様々な事を知りたい。だから、いれる時間は少ないけれど…隊に入れてほしいな、って思う」



沈黙を壊す風雅。
静かに、しかしハッキリと自分の意思を伝える。

「…風雅!いいよそれ!!フラムちょっとクラっときた!!」
「フラムちゃんそれどういう意味なの」

フラムの冗談で僅かながら空間に笑顔が戻る。
次はお前の番だ、と言うように一同が暗乃の方を向く。それは、もう隊に入れる体の眼差しであった。
暗乃も何かを察した様で、戸惑いつつしどろもどろながらに話し始める。

「わっ、私も…将来とか、全然考えたことないけれど。争い事とか見たくないし。レヨと原因探して、人間とロボット同士の溝を埋められたらなって。だから、この隊に…入れてほしいです」

恥ずかしながら微笑む暗乃。
紅は暗乃に負けないくらいの満面の笑みを浮かべ、碧音の方を向く。

「…碧音さん。どうでしょう」
「どうでしょう、って何だよ」
「3人とも、ちゃんとした気持ちで私たちと触れ合いたいと思っていただいているんです。もっと知りたがってくれています。会ったばかりの私がそう感じるので、きっと嘘じゃないです!」
「そうだよアオちゃん!仲間が増えて嬉しいじゃん!ね!!」

碧音は心底嫌そうな顔をして、溜息をつく。

「…もう、何だよ…お前ら、一緒に住んでる人にちゃんと了承得てるのか?こんな所隠れて来て、ロボットの評判が下がったらさらに悪循環だ。今日のところは帰って、話でもつけて来いよ。入隊はそれからだ」
「なんかアオちゃん先生みたーい」
「うるさい」



* * *



「…碧音さん、私たちのこと認めてくれたんですかね」

夕暮れに染まるバス停で、レヨと暗乃と風雅は家路を歩いていた。

「うーん…でもまさか僕たちがベリタスで活動するなんてね。自分でもびっくりだ」
「…そうね」

レヨは、先程早く帰れと自分たちを追い出した碧音の顔を思い出していた。

「…碧音さん、別に悪いロボットじゃなかったです」
「そうよね。紅さんもフラムも、あの隊のロボットたちは割と気楽な性格してたわね」

3つの分かれ道に辿り着き、3人はお互いにまた明日、と手を振る。
夕日に照らされながら歩く3人の足は、どれも皆しっかりと大地を踏みしめていた。


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あきゅろす。
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