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決裂の末 -psychology and truth- 本編
存在証明

「ハァ…ハァ…」
「…大丈夫?やっぱ人間はひ弱いな」

塔の奥、物陰に隠れて息を潜める2つの影。

「大丈夫、です。ナイフ持って来て良かったです、碧音さん…」
「…だな。やはり遠距離攻撃だけじゃ厳しかったな」

レヨは手に持った小さなナイフを腰のベルトに刺し戻す。遠距離攻撃だけでは万が一の状況になった場合危険だからと碧音が持たせていたものだ。

塔の奥だと明確に判断できる境界の様なものは存在しないが魔物の数と"雰囲気"で、今までの戦術通りにはいかないと戦いに不慣れなレヨでさえも理解出来た。

自分とは違う、バテてたりはせず涼しい顔をしている碧音を見上げる。

…と。

「…碧音さん…」
「……!」



「…いた」



碧音の数メートル後ろに現れた違和感にレヨが気付き声をかけたのと、その気配に碧音も気付くのはほぼ同時であった。碧音が発した「いた」という2文字にレヨは少なからず驚く。

…目的の探し物であった"紅"という人物は、レヨが想像していたよりもおぞましい姿をしていた。

長く伸ばしっぱなしの髪は艶やかさの欠片もなく、前髪が長い故に表情も伺えない。
さらに体全体が傷だらけであり、口から辛うじて浅い呼吸を繰り返しているところ以外には生気を感じられない。

「碧音さん…」
「レヨはここにいて。取り憑かれてるから一喝してくる」
「と、とり…?」
「…あいつは流されやすいから、おそらく未練に同情して取り憑かれた。取り憑かれると凶暴化して塔を我が物とし、それから拠点を広げる…そう教わった」
「…最終的には、ベリタスに…?」
「さあ。復讐のために来るかもね。俺が止めるけど」
「あ、碧音さん…!」



* * *



「お邪魔しまーす!くらのん、風雅!この子がフラムのお友達なの!」
「どえー!!ふらむ!!ふらむだー!」
「これ、うるさいぞ香音」

教室のドアを思いっきり開け友人を紹介するフラム。遠慮のえの字もないその行動に多少たじろぐ暗乃と風雅。
教卓にいる教師らしき白衣を着た男の注意に何も反応せず、フラムの元に来た少女は、桜色の髪を揺らして愛らしい笑顔を向ける。
教室内には白衣の男と桜色の少女しかいないのも理由としてなのか、その少女はフラムに負けないくらいの声量で元気よく挨拶をする。

「はじめまして!かおんっていうの!よろしくね!」
「よ、よろしくね。私は鈴音暗乃。こっちは麓風雅」
「すずね、くらの…はすみ、ふうが…うん、やっぱりくらのんとふうが!いいにっくねーむ!」
「う、うん」

幼児さが滲み出ている少女の話し方からすると、大体8歳から9,10歳程だろうか。どことない幼気さがフラムと似ている。

「あ、ついでに紹介しておくね。あそこにいる先生がフォトン先生って言うんだ」
「そー!ふぉとんせんせー!いっつもだるそうなの!」

元気玉2人の勢いが良い紹介に、対象のフォトンという白衣の男はだるそうにこちらに向かって手を振り、こちらへ寄ってくる。

「…見かけない顔だな。2人はどこから連れてきたんだ、フラム?」
「あのね、くらのんと風雅は社会見学なの!」
「しゃかいけんがくってなにー?」
「うーんとね、…まあ、色々見るんだよ!」
「お前も知らないんかい」
「そーなんだ!すごい!」
「香音はそれでいいんかい」

掴みどころがありそうでない3人の会話についていけずまた置いてけぼりの気持ちになる暗乃と風雅であった。

「ま、その何つったっけ。…名前忘れたわ。そこの2人。ま、ゆっくり見てけや。結局どこから来たのか分からんけれどな」

フォトンはそう言い残すと教室から出ていった。

「…そういえば香音、冷音は?」
「れおん?れおんはねえ、いまおんがくしつなの!」
「わかった!ありがと!くらのん、風雅、音楽室行こ!」
「さんにんとも、ばいばーい!」


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