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書物〜Storys〜
7月8日~07
紗葉:「大好きですよ、準一くん」
準一:「ありがとう、俺もだよ。飯田さん」
紗葉:「ダメですよ、準一くん。準一くんも私のことは名前で呼んでください」
準一:「は、恥ずかしいなぁ」
紗葉:「絶対ですよ?」
準一:「それじゃあ、俺からも要求させてもらっていい?」
紗葉:「なんですか?」
準一:「あの、さ。良かったら俺に対しては敬語じゃなくて、普通な感じで話して欲しいんだ」
紗葉:「普通な感じ、ですか?」
準一:「うん。飯田さんが元からそういう話し方をしてるのは知ってるけど…ほら、市原と話してる時って、敬語じゃないから。俺と話す時もそうして欲しいなって」
紗葉:「いいよ、準一くん」
準一:「ありがとう、飯田さん。じゃなくて紗葉、さん」
紗葉:「呼び捨てでいいよ、準一くん」
準一:「そ、そう?」
紗葉:「うん。なんだか名前をさん付けで呼ばれるのはちょっと恥ずかしいから…」
準一:「分かったよ。そうさせてもらうね」
紗葉:「はい」
車掌:『えー次は…上音町、上音町です。お忘れ物のないようご注意―』

気付けばもう降りる駅にまで来ていた。話をしていると案外と早いものであると、俺は改めて思う。
車掌の放送の後、1分ほどで電車は駅に到着した。
俺と紗葉は電車を降り、改札を通り、駅前に出ると立ち止まった。

準一:「紗葉、もう遅いから家まで送っていくよ」
紗葉:「うん、ありがとう」

恋愛経験なんてない俺だけど、小耳に挟んだ程度の事なら知っている。
だが、それ以前に紗葉のことが心配だった俺は紗葉を家まで送り届けることにした。
歩き始める俺と紗葉。その手は申し合わせたかのようにやわらかく握り合っている。
ただ手を握り合うだけでこんなにも心が温かくなることも、女の子の手がとても柔らかいことも知らなかった俺は、嬉しさと気恥ずかしさがない交ぜになった心境だった。

準一:「そういえば、俺って紗葉の家の場所知らないんだった」
紗葉:「あ、そうだよね。一回も来たこともないから」
準一:「そうそう。ストーカーなんて最低な真似をしてるわけでもないから、全然。ここから遠いのか、近いのかすらも知らないほどだよ」
紗葉:「大丈夫。ここからそんなに遠くはないから」
準一:「そっか。なら、案外俺の家も近いのかもな」
紗葉:「準一くんもここから近いの?」
準一:「うん。ここから歩いて10分くらいの距離かな」
紗葉:「あ、私と大体同じなんだ」
準一:「へぇ。それじゃあ、本当に近い所かもね」
紗葉:「そうだね」
準一:「じゃあ、案内してもらえるかな」
紗葉:「はい」

紗葉は俺の手を引いて歩いている。
さっき敬語で話さないで欲しいと頼んだものだから、もっとたどたどしい会話になるんじゃないかと思っていたが、そんなこともなくて紗葉は適応力が高いのだと俺は思った。
俺がそんな事を考えている間にも、紗葉はどんどん歩いて行く。
俺と手を繋いでいるから、離れるということはない。
歩いていて気付いた事だが、紗葉の家の方面は本当に俺とそう変わらない。
そして歩き始めてから10分ほどの時間が経ったところで、紗葉は足を止めた。

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あきゅろす。
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