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書物〜Storys〜
7月8日~06
◎◎◎

その後、観覧車を降りた俺と飯田さんはもう時間が遅いという事で遊園地を後にした。
しんと静まり返り、電車が走る音だけが車内に響いている。
急に聞きたくなった事が思いついた俺は飯田さんに話しかけることにした。

準一:「あのさ、飯田さん」
紗葉:「何ですか?大原くん」
準一:「今更聞くのって何だか気まずくなるかもなんだけど、どうして俺の告白にオッケーしてくれたの?」
紗葉:「分かりませんか?」
準一:「え?」
紗葉:「さっきの大原くんがやったことのお返しです。どうしてかは、大原くんなら分かるはずですよ」

飯田さんは悪戯っぽい笑顔で返してきた。俺はというと、その言葉に含まれる意味を探るのに、少し考えてしまう。
もしかして、飯田さんも俺に好意を寄せてくれていた?だから今日のデートを受けてくれたっていう事か?
いや、しかしどうしても信じられない。俺はなんの取り柄なんてない。この間、今日のデートに誘うまでは、こんなに長い時間話したこともなかった。なのにどうして?
俺はやはり、分かるはずがなく首を横に振る。
すると飯田さんは可笑しそうに笑った。
俺はその意味が分からず、今度は首を傾げる。

紗葉:「大原くん、本当に分からないんですか?」
準一:「ゴメン、本当に分からないよ」
紗葉:「私も、大原くんの事が前から好きになってたんです」
準一:「え?」
紗葉:「私、1年生の時から大原くんの事が好きだったんです」
準一:「どうして?」
紗葉:「どうしてって。どうしてでしょう?初めてお話した時の事、覚えていますか?」
準一:「うん。飯田さんが資料室から職員室へ資料を運んでいた時に、資料が多すぎて落としちゃったんだよね」
紗葉:「はい。それで偶然通り掛った大原くんが親切に拾うのを手伝ってくれて、それだけじゃなくて運ぶのまで手伝ってくれたんですよね。確かに他の男子の子も手伝いはしてくれます。でも、それは私に良い印象を持たれたいという意思がはっきりと感じられるもので、なんだかあまり嬉しくはなかったんです。でも、大原くんは違いました。とても自然に、私を助けてくれました。私、その時に思ったんです。ああ、なんて自然で優しい人なんだろうって。そして、気付いたら私は大原くんの事が好きになっていたんです。あはは、変ですよね。助けてもらっただけで好きになっちゃうなんて」

飯田さんは自分を笑うようにして笑っている。でも、俺は飯田さんにこれ以上、自分を笑うような笑顔を作って欲しくなくて、首を横に振った。

準一:「全然、変じゃないよ」
紗葉:「え?」
準一:「俺だって、そうだよ。あの時、飯田さんを手伝った時だったんだよ。俺が飯田さんを好きになったのは。前からね、可愛い娘がいるっていうのは聞いていたんだ。でもね、その時は飯田さんだっていう事も知らなかったし、まだ飯田さんを意識してもいなかったんだ。でも、あの時に手伝った時から、何て言うのかな。自然と引き込まれるような、話していてすごく楽しい人だと思ったんだ。楽しい…ん〜心が弾むっていうのか、そんな不思議な感じ。それでそれが他の女子と話している時では感じられなかった。それで気付いたんだ。俺は飯田さんが好きなんだって。その後だよ、飯田さんが男子からすごく人気があるんだって知ったのは」
紗葉:「それじゃあもしかして…」
準一:「そうだね。俺達、お互いに好き合ってるのに、それを知らずに1年近くを過ごしていたって事になるかな」
紗葉:「なんだか、嬉しいです。そんなに前から互いに好き合っていたなんて」
準一:「俺もだよ。それと似た者同士だって事も」
紗葉:「似た者同士、ですか?」
準一:「そう。お互いに気付けなかった。鈍感って言うのかな?こういう場合は」
紗葉:「そうですね。似た者同士ですね。嬉しいです」
準一:「俺もだよ、飯田さん」

俺と飯田さんはなんだか可笑しくて笑う。
しかし突然、飯田さんは笑うのを止めると、俺の方を真剣な目で見つめてきたので、俺も笑うのを止める。

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あきゅろす。
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