[携帯モード] [URL送信]

書物〜Storys〜
7月8日~02
準一:「あら、電車行っちゃった」
紗葉:「ご、ごめんなさい。私がご迷惑を掛けたばっかりに……」
準一:「気にしないでいいよ。別に今のに絶対乗らなきゃいけなかった訳じゃないんだから」
紗葉:「は、はい。その…大原くんは、優しいんですね」
準一:「お人好しなだけだよ」
紗葉:「だけではありませんよ。先ほどから思っておりましたが、大原くんはとても自然に優しいです」

飯田さんがあまりに穏やかで優しい顔で俺のことを話すものだから、俺は一瞬、見惚れてしまった。

準一:「あ、ありがとう。そういう風に言われたのって初めてだ」
紗葉:「そうなんですか?」
準一:「うん。今まで、俺自身がお人好しなだけだって言ったら、みんなその通りだってだけ言ってたから、やっぱりそうなんだとばかり」
紗葉:「だから、大原くんは優しいですよ」
準一:「そ、そうかな?」
紗葉:「はい、それはとても。まだ少ししか話していませんけど、私には分かります。大原くんがとても優しい男の子だってことが」
準一:「そっか。じゃあ、優しくて、尚且つお人好しってことで」
紗葉:「くすっ。なんですか、それは。可笑しい」
準一:「そうだね」

俺と飯田さんは揃って笑い合うと、空き容器をゴミ箱へ捨て、ホールへと向かった。
ホールに着くと、丁度よく電車が来たので、俺と飯田さんはそれに乗り込んだ。
電車の中は意外な程に空いていて、すんなりと座ることが出来た。

準一:「いやー、以外に車内が空いてて良かったね」
紗葉:「そうですね」
準一:「これは多分、後で混むんじゃないかなぁ」
紗葉:「そうでしょうか?」
準一:「まっ、あくまで予想だけどね」

俺はそう言うと、視線を飯田さんから外へと移す。
景色はどんどん過ぎ去り、次々と新しい景色が窓から俺の視界に飛び込んでくる。それは、まるで目まぐるしく移り変わる現代社会のような感覚さえ覚える。
ふと視線を飯田さんに戻すと、彼女も俺と同じように正面の窓から外の景色を眺めていた。

準一:「外の景色、楽しい?」
紗葉:「え?あの…どういう?」
準一:「あ、ああ…言葉が足りなかったかな。その、外の景色を見るの、楽しい?って」
紗葉:「はい。少しは…」
準一:「少しなんだ。じゃあ、本当は何が楽しいの?」
紗葉:「そうですね……お話とか」
準一:「話?相手は多分、俺なんだろうけど」
紗葉:「はい。私、大原くんともっとお話をしてみたいです」
準一:「例えば、どんな?」
紗葉:「ん〜…普段、家ではどんな風に過ごしているのか、とか」
準一:「普段、家でどんな風に過ごしてるか、ねぇ……」
紗葉:「はい。差し支えなければ、是非」
準一:「話してもいいけど、俺だけが一方的に話すだけじゃ、ただの質問だから、飯田さんにも当然話してもらうよ?」
紗葉:「はい。私は構いません」
準一:「分かった。それじゃ、まず俺から話そうかな」
紗葉:「はい。お願いします」

俺がそう言って思考に意識を集中させ、話し始めるのを飯田さんが興味津々な表情で俺の顔を覗き込んでくる。
俺はそれに気恥ずかしさを感じながら、それとなく話し始める。

準一:「そうだな……。平日で学園のある日は、帰ってきてから、荷物置いて、洗濯物取り込んでから、着替えて晩御飯の買い物行って、帰ってきたら晩飯用意して、食って…その後は、テレビ見たり、パソコンでインターネットやったりしてのんびり過ごしてから、風呂入って寝るって感じかな。あ、でも日によってはバイトがあるから、その時はちょっと時間帯が変動するくらいかな。休みの日は、基本的に予定がなければ、家でゲームやったり、インターネットやったりして過ごしてみたり、気分では友達とカラオケ行って歌ったり、ゲーセン行って遊んだりだね」
紗葉:「大原くんって、インドア派なんですか?」
準一:「ん?なんでそう思ったの?」
紗葉:「いえ。なんだか、家で過ごすことが多そうな内容でしたので…」
準一:「あぁ〜、休日にゲームとかインターネットやったりしてるって言ったからかな」
紗葉:「はい」
準一:「確かに家で過ごすこともあるけど、割り合い的には友達と外で遊んでいることの方が多いよ。俺はアウトドア派でも、インドア派でもないかな。五分五分って感じ」
紗葉:「そうですか」
準一:「さて、次は飯田さんが話す番だよ?」
紗葉「あの…やっぱり話さなくてはダメですか?」
準一:「当然。だってそれが俺の家での過ごし方を話す条件だったでしょ?」
紗葉:「大原くん、ちょっとイジワルです」
準一:「まぁ、それが俺だからね」

飯田さんが少し拗ねたような顔をする。その表情はとても可愛く、俺は彼女と今、こんな風に過ごせることを幸せに思った。

[前ページへ][次ページへ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!