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依頼をどうぞ。
四月




春うらら。
暖かい日差しが降り注ぐ縁側で、狼とゆうは日差しを浴びながらのんびりとお茶を飲んでいた。

湯のみを両手で包んで、膝の上へ置く。

ほう、と一息ついたところで、来訪者に気づく。

「アニキ」
「よう」

近所に住んでいる年上のお兄さん。
兄さんの妹は狼と同じ年である。

片手をあげて挨拶を返したアニキは、ゆうの隣に腰を下ろした。

「アニキどうしたの?」

ゆうが首をかしげて問いかけると、アニキはがいがしと頭をかいて、そして言った。

「かくかくしかじかで温泉が出たので温泉旅館を始める」
「は?」

アニキの言葉に狼達姉弟は思考を停止した。
あまりにも突拍子もなかったためである。
いやいや、温泉て。

温泉てなによ。

固まった二人を見てアニキは笑いながらあっけらんかんと続ける。


「いや、最近俺親戚から土地貰ったじゃん?そしたら温泉でちゃってさぁ。だから温泉旅館を始めようと思って」

差し出された書類には確かに温泉が出たと記されている。



「だから従業員として誘いに来た」
「面白そうだからやってやんよ!!」




@湯けむり温泉旅館パロを依頼屋チームで!!



三人で大きな玄関の前にやってきた。

いつのまにこんな大きな門が。

ほぇーと門を見ている二人の前に、中から出てきた女性が。



「こんにちは。秘書を務めさせていただくありかだ。よろしく」
「よろしくな」


黒の長髪を後ろにまとめ上げ、着物を着用している。
切れ長の目に花飾りがよく似合っていた。


「本編でるよりも先にこっちにでるなんてね」
「メタ発言やめようぜありかさん」
「…まぁ一通り見ていくといい」
「あいよー」


康にくっついてまだこじんまりとした旅館を歩く。
今のところは、男湯と客室2部屋しかないようだ。

ゆうが首をかしげる。

「…できたばっか?」
「増築することに意味がある!!」


旅館としては少なすぎるそれらに思わず聞いてしまったようだが、アニキはそれに対して両手を拳にして力説した。

「馬鹿じゃん!!」

狼の言葉にアニキは首を横に振る。
やれやっれと言ったような態度に姉弟の額に青筋が浮かんだ。




「あ、ちなみにゆうが建築だから。よろしくね!」
「まじで?任せろ」
「俺と一姫は事務業。狼は設計な。あ、接客には龍王と友がいて、手があいてるときは狼とゆうもこっちに回ってもらうから。料理頭は喜美だから。勇希もこっち。じゃぁ狼早速設計よろしく!ちなみに、もう開業してるから!」
「アホでしょ!!」



玄関からはいらっしゃいませーという龍王の声が聞こえてくる。
お客様の鞄を持った友がこちらへ歩いてくる。
なるほど、あれが流行りの男の娘か。


似合いすぎている女物の着物に流石のアニキも苦笑している。

「いらっしゃいませ」

お辞儀をして通り過ぎ、狼はゆうを連れて男湯よりも2部屋ほど先のところを指差した。


「ここ、女湯作って」

「任せて」


どこからか取り出された木材を使ってあっという間に作り上げられる女湯。
2週間たつころにはすでに出来上がっていた。

完成を見たアニキと一姫は一言。

「やりおる」

と呟いた。
それに対するゆうの返事は

「まぁこうじゃないとだめだからね。ストーリー的に」

「おい」

「まぁ所持金は300000円だから計画的に使ってね」
「それはアネキに言ってね。あぁ、温泉の源泉はきちんとひっぱってあるから。
俺次は客室作んなきゃだから」
「はいよ。お疲れ様、がんばれ」

バテレン姿にタオルを頭に巻いたゆうの後姿を見送って、一姫と康は一枚の紙を見下ろした。

=開業準備を進めていた依頼屋旅館が、ついに本日オープンしました。
 早速何名かお客さまも訪れているようで、今後の発展が期待できそうです。
 また新たな情報を掴み次第、本誌でお伝えしていきたいと思います=

康は苦笑して

「こういう風に自分たちの存在が知られまくるのってどきどきするな」

と一姫に言う。

「そうね。とりあえず、玄関の掃除でもしてくるわ」

同じく苦笑した一姫は玄関へと足を向ける。

きっとそのまま客寄せもするだろう。


あぁそういえば机の上に設計図があったな。見なくちゃ。


真新しい廊下をとたとたと歩いて、事務室へと向かっていった。








がりがりと頭を抱えながら狼は与えられた仕事部屋で図面を書きこんでいく。

「ここに客室で…ここにも…。まだパチンコと自販機とあと…食堂が…」

狼の周りに散らばっている紙には設計図だけでなく、着物(ユニフォーム)の図案も描かれている。

「っし、あとはアニキに見せて、友の手伝いをしていこう!」

ペンを置いてとんとんと図案所をまとめる。
それを抱えて立ち上がり、狼は事務室を目指して歩き出した。


近くになかった温泉旅館ができたせいか、客は思っていた以上にたくさん来ている。
すれ違うお客様の中にも多少なりとも面識がある人がいたりして。

挨拶をしながら歩いていた狼の背中に何かがぶつかる。


「っ!?」

慌ててふんばったお陰で倒れずに済んだが、後ろを振り返った狼の目に映ったのは木材を運んでいるゆうの姿。

「背後気をつけろよ!」
「ごめんよー!」

今度こそ事務室へと足を運んだ。











「アニキ、これ浴衣の事案」

「お前なにしてんだ」




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