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依頼をどうぞ。







久々に、名指し依頼のない今月。
狼は、広い館に一人だった。

狼以外のメンバーはリーダーの康ですら任務で出払っている。

ひさびさの休日なのだから、思う存分だらけてしまおう。
一番任期の短い一姫ですら帰ってくるまであと一週間はある。


自分でいれた甘いコーヒーに口をつけながら、ふと、狼は過去のことを思い出した。
初めて一人で依頼を遂行したあの時の記憶を。





目の前に差し出された一枚の紙を、小さな手が震えながら受け取った。

「お前一人に依頼だ。お前と同じ忍者になるために学園に通っている生徒を要の生徒たちが出払う間護ってほしいっていうわけだ。護り方お前に任せるそうだ」
「…、はい」

ぎゅ、とかたく握りしめられているせいで書類はくしゃくしゃになってきてしまっている。
康は苦笑して、ぽん、と狼の頭に手を置く。

砂の里に依頼報酬にスカウトしてきたこの小さな子供は、妹と同じ年齢のはずなのに、妹よりも幼く小さく見える。
それの理由は、わかっているが。

「…。狼?」
「、は、い」

隠れ里の長の実子として産まれた彼女に待っていたのは小さな子供に施すにはひどすぎる人体実験だった。
いまはまだ砂の里にいる弟のも、同じように人体実験を受けていたらしい。
そして、その弟を護るために、自分が護るはずだった里を滅ぼした狼。
痛みと孤独に人よりも敏感な彼女に、一人の任務はまだ、無理かもしれない。

「無理しなくてもいいぞ…?なんだったら、同じ年の一姫にでも変わってもらえば…」
「や、やります!やらせてください…っ」

打開案として妹の名前を出したら、叫ぶようにして狼はこちらを見上げた。
その瞳が訴えている光を見て、康は微笑んだ。
狼のことをくるりと回して、その前に魔方陣を発動させる。

「頼りにしてる。…いってらっしゃい」
「…いってきます」

優しく背中を押せば、狼も嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
小さな身体が全部魔方陣に沈んだのを見届けてから、康は、そろそろ弟のほうも連れてくるか…と考えていた。












「このたびはご依頼ありがとうございます。メンバーナンバー004の狼でございます。
これから依頼を遂行するまでの間、どうぞよろしくお願いいたします」


魔方陣から出た先は依頼主の庵の中。
膝をついて、康から散々習った挨拶をすれば、依頼主は愉快そうに笑った。

「ほっほ、お主が忍びかのう」

愉快そうに湯のみを持ちながら老人は笑って、狼に手招きをした。
初めて会う人間に気安く近寄れるほど、この当時の狼は心に余裕はなかった。

恐る恐る近寄れば、老人は破顔して狼の頭をなでた。

「可愛らしい童じゃの」

目を細めて自分を見ながら頭をなでる依頼主に、狼の緊張も少しだけ解けたのであった。



その後、紹介をする前に、学園内を見回ってくるといい、という言葉とともに降りてきたの少年に連れられ、学園内を回った。

お互いに警戒している状態なので、必要以上の会話を交わすことなどなかった。

さらさらと長い髪が揺れている様子をみて、ただ、綺麗だ、と狼は思った。




一度打った文を手違いで全消ししてしまった時一言。
”し、にた…っ!!”
この文とは全然違う雰囲気だったのに。



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