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ほのかなにおい【ベルフラ】
ベルセンパイに気づかれずに何とか侵入成功。
センパイはソファでのんびりと任務のオフを雑誌でつぶしていた。せっかくの非番なんだからもっと遊べばいいのに。
まぁ自分も本しか読まないけど。
そんなことを口に出しそうで思わず唾を飲み込んだ。気づいただろうか。いや、この調子だとセンパイの間抜け顔がもうすぐ見れるだろう。きっとたぶん気づいていないはずだから。
「おいバカエル。コーヒー持ってこいよ」
「何でミーがパシられないといけないんですかー」
…あれ?反射的に答えてしまったけれど、あれ?
「何気配消してんだよ。もう少しマシな消し方してこい」
そう続けて手でミーを台所へ追いやる。
コーヒーを入れないと話をしてくれなさそうだ。何でミーが…、とブツブツ呟きつつ、入れたことが数回しかないコーヒーの入れ方をかすかな記憶を頼りに注いでいく。
だいたい色もこんな感じだし、香りもコーヒー独特の香りだ。またダメ出しを食らうんだろうなー。と最後までブツブツと呟き通し、マグカップを両手に包みながらベルフェゴールの横に座る。相変わらず厚い前髪で隠れた瞳にミーは映らない。
「どーぞ。たぶん毒とか入ってないといいですねー」
と直接手渡す。
「たぶんって何だよ。毒とか致命的だろーが」
まだこちらを向かない。
瞳は今時のファッションや好みの服を捉えている。というかこの人はボーダーだけが好みなのだろうか。いやしかし、今はボーダーではなく薄めの白いセーター。ますますわけが分からない。
「んで、何で気配消して来たんだよ」
「それはーただ単にセンパイの間抜け顔を見たかっただけですー」
嘘をついてもこの人はすぐに分かってしまうから最近は本心を言うことが多くなった。気がする。
「あっそ。まぁ王子はそんな醜態晒さねぇし」
元はといえばこの人がミーに気づいたからコーヒー入れないとダメだし、瞳はこちらを向かないし。
「というか、いつからミーに気づいてましたー?気配的に」
「んなもん入ってきてすぐに決まってんだろ」
がっくり。流石王子というか天才というか暗殺者というか。気配消したつもりなんだけどな…。
「何で分かったんですー?ミーなりに大幅消したつもりだったんですけどー」
「んー…空気?っつーの?何か変わるからすぐに分かるっていうか」
空気?風?なるほど。これもう嵐の守護者でよかったんじゃないですか。要するに空気の振動で分かるって話でしょ?普通なら成し得ないことだ。
「じゃあ完全に気配消した状態でセンパイに近づいてもバレるってことですねー。センパイの背中は安全ですー」
「んーそういうわけでもないんだよなー。空気変えないで近づいてくるやつとかもいるし。まぁ気を許してるやつとかだったら反応遅れるかもしんねぇけど。」
気を許してるやつ…?ほうほう。つまりセンパイの中にいる人だったらばれずに驚かせることができるかもしれない?
「つかその前に音とかでわかるし」
確かに。ミーもそうやって気配を辿るとこが多い気がする。センパイが気を許しているやつ、というのはヴァリアー幹部だろう。ヴァリアー城内は常に警戒を怠っていないためスパイの侵入は過去で数回ほど。バレたら即刻死刑。なので幹部は堂々と足音を立てて歩けるというわけだ。いつも怒鳴っているあの高血圧ロン毛は足音でかいし、オカマは女みたいに歩くから足音はあまりないものの、甘い香水やら何やらを纏っているため空気の変化はすぐわかる。ボスはあまり部屋から出ない。よっぽどのことがないと動かない。前任はふよふよ空中だし、ムッツリは堂々と普通の足音。部下とかに声かけてるからそれで分かるしなぁ…。それに比べてミーはオカマみたいに香水なんてつけないし、大きな声で話すこともない。足音だって幹部の誰よりも小さいと自負している。
「そりゃそうですよねー」
と半ば自分に言い聞かせるように返事をして部屋を出ようとした。ここにいたってつまらないし、何よりセンパイの目はミーを捉えない。ここにいたって意味がない。
「…コーヒーにげぇんだよ。今度入れ方教えてやる」
ボソッと言ったようで、はっきりと聞こえた意味深な言葉。なぜかまだここに居たいと思ってしまった。
「それは楽しみですー。じゃあミーは任務があるんでその後にでも」
本当はありがとうございます、って言いたいのにいつも一捻りしたセリフで返してしまう。
ドアに手をかけ、扉が閉まる前に「お前だからに決まってんだろ」と聞こえ、顔が火照るのをありありと分かってしまった。
いや、自分に向けての言葉じゃないかもしれない。誰かに言ったんだうん。ミーに対してじゃない。そう自分に言い聞かせるがこの後の任務で意識し過ぎて集中出来ず、怪我を負ってしまいベルが看病するのは、また別のお話。


あきゅろす。
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