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1話目は無難に日常
side:亮



目覚めたのは、太陽が随分と高い位置まで昇ってからだった。
今が何時なのか、気にしなくなったのはいつのことだろうか。少なくともここ2、3ヶ月とかいう話じゃない。ならば、今改めて時間について考えてみようか。日の高さからいくと11時〜13時くらいが妥当なとこだろう。いや、もしかしたら10時かもしれないし14時かもしれない。
そんなどうでもいいことを考えていると、遠くで鳥が一声鳴いた。耳障りなその音の発信源を一度見やると、布団代わりに包まっていた大きな植物の葉を掻き退けて身体を起こす。この植物は、水を全く与えられなくともすくすくと成長する癖に、茎を折ると少しばかり苦いが立派に飲み水の役割を果たす液体を多く出すのでありがたい。葉先を一撫でしてから、焦げるような太陽と砂の匂いを腹一杯に吸い込む。

「はぁ…今日も良い天気だ」

そう言って立ち上がると、遥か後方でボスッと何かが落ちるような、間抜けな音がした。それは最早慣れてしまった、先程の鳥が砂の上に落ちてきた音だ。
何故か、あの鳥うぜぇ、死ね!と思うと実際に鳥が死んでしまうのだ。思っただけなのに。超能力にしては他のことが何も出来なさすぎているが、そうなのだろうか。最初はとても驚いて、生き物を殺すなんてこと初めてだったから恐かったけど、それよりも何よりも、何日も何も口にしていなかったから尋常じゃなく腹がへっていて、餓えて死ぬことへの恐怖が強かった。つまりは食べたのだ、その鳥を。
それからは、少しの申し訳ないという気持ちと、生態系とか食物連鎖とかよく分からない小難しい単語で言い訳して、生きるためには仕方ないと思いながらもそれを続けた。
今では10日に1回の頻度で鳥を食べている。

「ふぁ〜あ…今日はどうしようか…」

どうしよう、なんて言っても、今いる場所は砂漠で、それも1人な訳で、することなんて限られている。
砂の上をただひたすら走るか、巨大な岩の山を登るか、蟻地獄みたいな入ったら抜け出せない砂の中でスリルを楽しむか、小さい石から順々に砕いていくか。どれもこれも、何かの訓練みたいに必死にやるのが重要だ。実際に体力つくし何か特訓みたいだし。

「よし、あのでっけぇ岩みたいの登って、思いっ切り砂にダイブしよ」

何だかだんだん独り言が多くなってきている気がするが、仕方ない。そうでもしないと喋り方を忘れてしまいそうだ。というか一度声が出なくてヤバかった経験がある。
足を一歩踏み出すと、指の隙間に小さな石が食い込む。もう慣れたその痛みに舌打ちし、足を振りかぶって石を蹴り上げた。あまりに小さく軽いその石は、裸足の足で蹴ったにも関わらず、弧を描くことなく一直線に目の前の岩山へ向かった。

「あ、やべ」

きっとそういうツボみたいな場所に当ててしまったのだろう。コツン、と可愛らしい音の後に、ゆっくりと、しかし確実に大きな音を立てて岩が崩れていく。
その光景に溜息を吐き、回れ右をして即座に駆け出す。そして暫くは振り返ることもせず、とにかく遠くへ遠くへとひたすら走り続ける。その間にも轟然たる大音響が大地をつんざく。

「まぁたやっちまったぜ…」

揺れる地面の砂に足をとられ、もつれそうになりながらふと後ろを振り返ると、遠くでわりと広範囲の砂が蠢いて、砂埃が大量に舞っていた。何がどうなったのかなんて分からないが、大きな岩山が崩れたのが原因で何かしらが色々あって、雪崩のような現象が起きたのだろう。これも初めてではない。驚くよりも大切なことがある。

「また引っ越しかぁ……。ってか、鳥回収すんの忘れたー…っはぁ、激ダサだぜ…」

本来美味しく頂く筈だった失われた命に合掌すると、新たな寝所を探すべく、今度はゆっくりと進み始めた。





生きんがために食え、
されど食わんがために
生くるなかれ。



(次は高い木のあるところを探して、
この景色がどこまで続くのか確かめよう)







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