噂話
九話
「ひかるのやつ…なんでこんな大事なもんを忘れるんだ……」
おれは呆れていた。ひかるがおれの家を出た直ぐにおれはひかるの忘れ物。ひかるの携帯を机の下で発見してしまったのだ。
「…まだ外は微妙に明るい…けど出たくない…でも届けなきゃ苦労するだろうし…」
外に出て急いで届けるか否かをおれは一人で悩み込む。こうして悩んでいる間にも時間はどんどん過ぎて行き外が暗くなってきているのだ。悩むことなんてなくなればいいのに。
「……あ」
そういえば明日も休みだった。それを思い出しておれはほっとする。そうだ、明日渡せばいいじゃん。それに向こうも気付くはずだ、こんな暗い中わざわざ歩く必要なんか無い。明日ひかるがこっちに来たら渡そう。連絡取れないし。
「……」
こんな大事なものを忘れるぐらい頭ん中は別の何かで埋まってて携帯の存在を忘れるんだ。絶対明日になっても気付かないよ。
「よし…」
おれは外に出て急いでひかるに携帯を届ける事を胸に決意した。
おれは自分の部屋を出て玄関に行き靴を履く。ドアノブに手を掛けドアを開こうとすると。
「誠ー?どこか行くのー?」
「わっ」
急にお母さんがリビングから話しかけてきた。急過ぎて一瞬体がびくってなった…びっくりした…
気を取り直しておれは用件を伝える。
「さっき家に来てた友達が忘れ物して…今から届けに行くんだけど」
「あら、そう?じゃあ行ってらっしゃい。早めに帰って来るのよー?」
言われなくても早く帰ってくるつもり。そう心の中で思いながらガチャリとドアを開けた。
「……」
どんっと暑い空気が自分の体を押す。もうこんなに暗いのにまだまだ暑いんだ。
暗い外と暑い空気を我慢しながらおれはひかるの家の方向へと歩き出す。
…
ガサガサと辺りから生えている木が風に揺られ喚いている。正直これだけでも血の気が引くほど怖い。
「う…足が速く動かない…」
完全に怯えてしまって上手く足を運べない。それでも精一杯のそのそとおれは歩く。
そして一本の木を通り過ぎた。
そしてすぐ立ち止まった。
その木を通り過ぎた瞬間じっと誰かが自分の事を見ている。絶対気のせいじゃない。はっきりと視線がおれの背中に刺さっているのがわかる。
「ッ………」
家を出た時から周りに人は誰もいなかった筈だ。おかしい。
振り返る勇気も無くただずっとそこに立ちすくんでいるだけのおれ。何もできることはない。
ブーッ
「わひっ!?」
放心しかけていたおれは急に持っていたひかるの携帯のバイブ音で目が覚めた。び、びっくりした…心臓止まるかと思った…
なんだと思いながらおれは携帯をちらりと覗く。あ、あまりやっちゃいけないことだけど許してひかる。
「なにこれ…」
そこには件名も本文も何も書かれていない一通のメールがあった。このタイミングでこんな悪戯メール受信しないで。
仕方なくおれはメールボックスを開きそのメールを消した。
消せない。
何回消去を選んでも一向に消える気配が無いのだ。
「な、なんだよこれ…」
不気味過ぎてわけがわからない。もうこのままUターンして家に帰ろう。ダッシュで。
覚悟を決めおれはきゅっと爪先の向きを変え振り返った。
「……」
まず目に入って来たのは視線を感じた一本の木。恐る恐る近付いて何も無いことを確認する。
「……あ」
よくよく目を凝らしてみるとそこには一匹の蚕蛾が止まっていた。
おかしい、蚕蛾は野生じゃ生きていけないはず…人の手を借りないと死んでしまうし飛べない蛾じゃなかったっけか。
少し可哀想なので家にでも連れて帰ろう。そう思いながらそっとおれは蚕蛾を手に乗せるように上手く誘導した。
近くで見ると案外かわいい。しかもおれのことをじっと見ている?ような気がする。ペット感覚。
そのままおれは家までダッシュで帰っていった。
「全く、飛べないだとか生きていけないだとか失礼な奴だな……」
「ん?」
空耳だろうか、何か言われたような気がした。どうせ空耳だと思うけど。
いつの間にか家まで着いたおれはドアノブを握りドアを開けようと………
「あれ、あかない…?」
ドアが硬く閉ざされていた。
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