[携帯モード] [URL送信]

噂話
七話



たったった、と走る音だけが周りを囲む。不思議なことに俺達三人以外の人間…はいるのか?
じゃなくて、俺達三人以外の通行人はいないようだ。

「………」

俺は少し離れてしまっているあの人と抱えられている永倉の後を横の狭い壁が自分だけですーっと通り抜けていくような………えと、狭い道を普通の速さで駆け抜けて行った。

にしても今さっきの少女は何だったんだ。やっぱり追われてる?だとしたらなんで?

今考えても仕方が無いことなのかもしれないのだけれど、俺は気になって気になってしょうがなかった。そういう人間なんだ。





少し走ると今度はさっきよりもちょびっと広い道に出た。煉瓦が敷き詰められている…所謂煉瓦道ってやつかもしれない。まっかっかだ。

俺はその煉瓦を踏み締めた。走った足音が少し耳に心地良い。














ギィィ


ガチャンッ







「!」

急にすぐ左で大きな扉が閉まるような音がした。俺は音にびっくりして今その場でぴたりと立ち止まっている。

すぐ俺は左を向き音の正体を探る…

必要もなかった。やっぱりただの扉だ。木でできた大きな扉。煉瓦の柵?なにこれ?みたいなものの奥にその扉はあった。
木造なのはその扉だけであって、他は石造りだ。随分古そうな建物だな…
所々に本棚らしきものも置いてある。なんの建物だ?




「おーい!はやくー!」

やべ、早く行かないと。殺されるとか言ってたよな、流石に物騒すぎるよな…

「…今行くー!」

俺は返事をして先へと走り出した。


















少ししてあの人の喫茶店?らしきところへ着いた。
綺麗な白い扉に小さな鐘が付いている。更にすぐ横にはテーブルと椅子が並べられたテラスまである。人はいない…今日は休みか?

「おいでよ、狐くん。そんなところでぼーっと立ってないでさ、中に入りなよ?」

この人はそう俺に言う。なんとなく、だ。口調や言い方が弓人に似ている気がする。
俺はんー?と疑問を浮かべながら扉の前にある小さな階段を登った。

するとこの人はぴたりと止まった。ん?どうしたん…





カラン、カラン





「!」

小さな鐘を鳴らし扉が開いた。勝手にだ。輝く金色のドアノブにも手を触れていないのに。
むむむ…と俺は睨んだような顔で扉を見つめる。何か仕掛けでもあるのだろうか?

「どうしたの狐くん?早く入りなよ」

はっ、として俺は我に返る。そうだ、この人は人間じゃない。さっきの金髪の少女も。ここは、元いた俺達の世界じゃない。

魔法か…目の前で起きた非現実的な事に俺は目を奪われる。いや、非現実的な事なんて散々目の前で起きてるけどやっぱ魔法には心奪われるよな。

俺はお言葉に甘えて喫茶店の中へと足を運んだ。

「おじゃまします…」

ぼそりと小さな声でそう呟く。別に言わなくても良いと思うがな。
中はとても綺麗だ。木でできた壁に白い机と椅子。甘い香りが漂ってきてお腹がなってしまいそうだ。

「ようこそ、喫茶ニジへ。てきとうにどっか座っててよ」

ニジ、虹じゃないんだな。
てきとうって言われてもな…んー、じゃ、一番近くの席にでも座らせてもらおうか。

俺は椅子を引き、いつもみたいなどすんという荒い座り方じゃなくそっと音を立てずに座った。我ながら結構礼儀正しいのでは?とか思ってたりする。

「最近妙な噂が立ってて外は危ないからね…」

噂、か。気になる……

抱えられていた永倉は近くの茶色いソファーへと寝かせられていた。うさぎの耳が揺れ動いている…

「………」

ほんとなんだあの耳…
じーーっと俺は永倉の耳を見つめる。ただ見つめるだけだ。

するとことん、と俺の机の目の前に小さなカップが置かれた。紅茶の香りがする。

「どうぞ、招待しといて何も出さないのは失礼だからね」

そう言いこの人は俺の向かい側の席に座った。
紅茶…あんま飲んだことないな…。俺はカップを手に取り一口それを飲んだ。

「…!」

美味しい。俺紅茶ダメかと思ってたけどそんなことなかった。普通に美味しい。

「お気に召してくれたかな?」

「は、はい…」

俯き状態のまま俺はこの人に目を向ける。よく見ると口調だけじゃなく橙色の髪、片目が隠れていて黒い目とかところどころ弓人にそっくりな部分がある。
…てか、俺全部弓人と重ね過ぎ…ただの偶然に決まってる。
そう思いながら俺は紅茶を口の中へ注ぎ込んだ。

「あ、言い忘れてたね」

「?」

何を言い忘れてたんだ?名前か??

「僕の名前、ダオマリナ・アルカンシェルって言うんだ。ダオマって呼んで貰えると助かるよ」

うおお、かっけえ名前…ま、日本人じゃないから当たり前か。

「ダオマ…」

「うん、そう……後、ひとつ聞いていいかな?」

「!…なんですか?」

急な質問に俺は身構える。こい、今ならなんでも答えてやる。

「キミ、もしかして鞄の中に変なもの入ってたりしない?」

前言撤回。
俺は変なものものより変な質問に?を浮かばせる。

「言い方が悪かったかな?その…キミの鞄の中に本なんか入ってたりしないか?」


俺は少し驚き肩に斜めがけしてある鞄をぎゅっと抱きしめる。本…確かに入っている。けど、なんでわかったんだ。

「あ、やっぱりある?少し見せて貰いたいんだけど…」

ボロボロになったあの本をか…あんまり見せたくない。けど、どうしようもない。嫌とも言えないし…
俺は仕方なく鞄を開けボロボロの本を取り出しダオマに手渡した。

その本を見たダオマの表情は、あまり変わらないが少し驚いている様に見える。

「はあ…これは驚いたな…世界は狭過ぎるにも程があるよ…」

?なんだ。世界は狭過ぎるって。
するとダオマは本を机の上にぽん、と置きまっすぐ俺の方へと顔を向けた。
ふぅ、と一息ついてから彼はこう質問してきた。




「…ねぇ、もしかして僕によく似た耳の長い角の生えた男と知り合いなんじゃないか?」

まじで?
容姿も似てるし知り合い?とか思ってたけどまじか…まじかよ…ほんとに知り合いだったとは…
いや、でも弓人と決まったわけじゃない。もう少しその人がどんな人か聞いてみよう。

「心当たりはありますけど…それだけじゃ…」

「ふむ…じゃあ君が知るその男の性格は?」

性格は…性格…

「かっこいいかなって思ってたらじつは変態で男好きでホモの自己中悪魔」

「うむ、確実に僕の弟だな」

へぇー…そっか…






へ?弟!!!?

「いや、ちょっと待って下さい…そんなすぐ弟とか言われても困るというか」

確かに容姿はところどころ似ているところがあるが、全くの別人かもしれないだろ。気が早い。

「んー、この本の表紙にでかでかと記されている印も僕の知る限り一人しかいないし…」

印?やっぱこれ印なのか…てか、この印俺の右腰にも刻まれてるよな…それってどういう事だろうか。

「!…もしかして君、体のどこかにこの印が刻まれてるんじゃないか?」

この人感鋭過ぎ!!怖えよ。
ぎくりと体を震わせ、相手にやっぱりと思わせるような表情をしたのかダオマは席を立ち上がり俺の右横に腰を下ろした。

「ちょーっとごめんよ…」

え、待って、位置までわかるのか?
ダオマは俺の服を掴みそっと持ち上げる。そこにあるのは本の表情にある印と同じ。菱形に蝙蝠の羽の模様が刻まれていた。

「……!」

明らかに驚いた様な表情をしているダオマに俺は何と言ったらいいのか。

「これは本人に聞くしかないなぁ…」

本人が弓人と決まった訳でもない。
そもそもその本人がどうやってここに来るというのだ。そんな都合の良い話あってたまるか。

「その、そろそろ離して…」

「ん?あ、あぁ、ごめんね。びっくりしちゃって」

うん、まあ驚くよな。人間の体に、中学生ぐらいの男の子にタトゥーみたいなもんがあるんだからな。

「しばらくここで待っててくれないかな?というか外も危ないし、ここにいる方が良いだろう。聞きたいこともあるし」

それは誘拐と言うのでは。
てか、俺家に帰りたいんだけど…友達と一緒に転けたら何処かもわからない場所に来ましたとか普通だったらパニックになるぞ。

はぁ、助けてくれ誠…あとできれば弓人も…








カラン、カラン




「!」

誰か来た、俺はすぐ扉の方へと目を向ける。

「噂をすればってやつだね」

俺は入ってきた奴に目を丸くする。

「あれ、お客さん?兄さん、今日休みじゃなかったっけ………あれ?」

「あっ、えっ…うわ…」

そう、あいつだ。弓人だ。弓人が俺の目の前に現れたのだ。ちょ、どうしようこれ。

「………」

「…………」

お互いじっと見つめあって沈黙状態だ。どうしろと…
そう戸惑っていると弓人は扉の前から脚を動かし俺の目の前へやってきた。

「っ……」

「…ねぇ、この子どっから拾って来たんだい?」

「拾って来たって…ジュリーさんの店の前だよ。あんなとこにいたら危ないだろう?」

「………」

じーっと弓人は俺をみたまま動かない。
何されるかわからない。そんな恐怖が俺を襲って来た。

「もしかしなくともバンディの知り合いだろ?」

「!…そ、そうだけどさ」


弓人って名前じゃないのか?…よく考えてみればこんな日本人離れした容姿で日本人名みたいな名前自体おかしかったな。
それよりどうする俺、どうやってこの場を乗り切る?

「あと腰の印とか…」

「見たの!?」

「ああ、あんなわかりやすいとこにあるんだからね」

「っ……」

弓人は長い耳をゆらゆらと揺らしながら真っ赤に耳を染めていった。もしかして知られたくなかったのか?今までに見たことのない反応に俺は少しだけどきどきしていた。

「…ひかる、こっち」

「えっ!?」

急にこちらを向いたかと思えば弓人は俺の腕を掴み引っ張った。
そしてそのまますぐ近くのカウンターの横にある階段へと俺を連れて登っていった。

「!…行っちゃうの?」

「兄さんに見られたくないからね」

そう言いながらだんだんと階段を登る弓人。ちょ、転ける転ける!

「………」

そんな俺の思いも御構い無しに弓人はただ無言で俺の腕を引きながら登っていった。





階段を登った先にあったのはひとつの茶色い扉。
弓人はその扉を乱暴に開け俺を中にいれる。もしかして怒ってる?
がちゃんと扉をしめ弓人は鍵を掛けた。うわ絶対怒ってる…てかなんで怒ってるんだよ。

少し肝立っている様に見える弓人にキッと睨まれ俺は後退る。そのままどんどん俺に向かって歩いてきた。
ちょっと待って怖い、普通に怖い。俺は弓人に追い付かれないようにそのまま後ろ歩きで弓人から距離を取る。








どんっ



「!」
しまった、壁だ。追い詰められた。うわーっ馬鹿馬鹿俺の馬鹿!!
一瞬戸惑いながら俺は横に逃げようと体を傾ける、が、それも無駄な様だ。

「………」

もう既に俺の顔の左右には弓人の腕が置かれている。あれだ、壁ドンってやつだ。
俺は恐る恐る弓人の名前を呼ぶ。

「ゆ、みと……?」





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!