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噂話
六話



たったったっ…











「…ぅん…?」

また思い切り転んでしまった。今日で何回目だ?二回目か。
てかまた永倉を下敷きにしてしまった。もしここに愛田がいたら確実に殴られるな俺。

俺は下にいる永倉を起こすため立ち上がった。
にしても…







「どこここ」

周りに広がる見慣れない光景。俺達は確かどこにでもある家と家の合間に転んだはず。
そこは外国の様な、少なくとも日本では見られない石造りや煉瓦の建物が並んでいた。
幸い周りに人は誰もいない。細い道で丁度影になっている場所に俺たちは倒れていたようだ。


いや、そんなことより早く永倉を起こさなければ。
俺はしゃがみ永倉の肩を掴み揺すった。

「おい、永倉起きろ、なんで気絶してるんだよ」

「うぅ…」

揺するだけでなくぺちぺちと頬を叩く。すると永倉は唸り声の様なものを上げた。どうやら意識は取り戻したようだ。

「ん?」

俺は手に違和感を感じた。何か手に髪じゃない何かさらさらした塊の様なものがつんつんと俺の手を突ついている。
その突ついている物体を確かめるため俺はそれをぎゅっと握った。

「あぅっ」


体の一部?なんだこれ。
永倉の多い髪に埋れたそれを俺は髪の中から引っ張りあげた。



「!?」

出てきたものは予想外の物だった。
髪の色と同じ黒くて長い物体。その…兎の耳の様なもの、いや、兎の耳だった。付け耳…じゃないよな。温かいし、手を離しても立ったままだ。それにあの短時間で付けられる訳ない。

俺は夢でも見てるのか?人に動物の耳なんてそんなアニメや漫画じゃあるまいし…

「………」

おそるおそるもう片方の、右耳を確認する。
…やっぱりある。もう片方も兎の耳だ。
だがその耳はあまり見るに堪えない見た目をしていた。人の耳だった頃の傷がそのままだったからだ。
しかも耳の半分が千切れて無くなってしまっている。あんまり見たくない。

俺はそっと耳から手を離した。
永倉の耳がぴくり、と動く。本物みたいだ。







すると後ろから誰かが走ってくる音が後ろから聞こえた。

「!」

俺は咄嗟に振り返る。
…よく見えない。かなり遠くにいた。
ん?あんな遠くにいるのによく足音なんて聞こえたな俺。

んなこと考えてないで走ってくる人にじっと目を向ける。
その人もこっちに向かって走ってきているようだ。何だ?






暫くして走っていた人は俺達の前で立ち止まった。橙色の髪色をしていて片目が隠れている。そして何より耳が尖っていて白目の部分が黒い。

…人間じゃない。てことは今俺達は日本にいない?
ま、こういうのは慣れたからどうでもいいけど。


「はぁっ…はぁ…あれ?狐くんは起きたんだね?兎くんは…まだ気絶中かな」

は?狐?
俺は辺りを見回すが狐なんてどこにもいない。てか、こんなとこに狐なんかいるはずがない。

「さっきここで二人とも倒れてたから心配したよ、子供がこんなとこにいたら悪魔に殺されかねないからね…」

成る程、さっきの足音はこの人か。
そう言い彼は永倉をそっと抱き上げた。
えっ、ちょ。どこに連れてくんだ。

いやよれより。
悪魔って、え?ここにはそんなのがいる…
いや、もう俺は既にその悪魔と面識があるのだが…

「あ、あの…」

俺はその人に声を掛ける。

「ん?…あ、あぁごめんね、ここにいるよりも僕の喫茶店に避難した方がいいかなって思って…だから君もおいで」

喫茶店か。
確かにこんなとこにいるよりもそういう人が居そうなとこにいる方が安心するしな。
そうしてもらおう

「…わかった、俺も行く」

「ん、こっちだよ」

そう言うとその人はさっき走って来ていた道をまた走り出した。

それを追うように俺も走り出す。こんな状況じゃ頼れる人もいないし、この人に着いて行くしかないからな…









しばらくするとあの人は曲がり角を進んで行った。俺も追う様に曲がり角を進もうとしたら






どんっ





「うわっ」

「きゃっ…!」

誰かとぶつかった。
いてえ、てか、小さい…?俺はぶつかってしまった人物を確認しようと目を下にやる。

そのぶつかってきた人物…いや、人じゃない、そいつは長い金髪を腰まで垂らしていて黄色い角が三本と尻尾が生えた…悪魔のような少女だった。
俺は声を掛けようとする。

「!…っ…」

「あっ」

が、すぐまた走り去って行ってしまった。なんだよ、謝りもしないのか?失礼な奴だな。
ま、気にしないでおこう。俺はまた走り出した。






どすんっ


「いてっ!?」

「どけ狐!邪魔だ!!」

またぶつかった。今度は野太い男性の声が上から降ってきた。なんなんだよ…!

「っ……」

その男はさっきの少女と同じようにさーっと走り去って行ってしまった。よくぶつかるな。

…てか、さっきの男の人あの少女を追っかけているのか?
だとしたら何でだろう。

「まあ俺が気にすることじゃないよな」

そう呟き、またぶつからないようにと願いながら俺は永倉を抱えている人の方へと走って行った。





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あきゅろす。
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