噂話
五話
「ふぅ…」
「なんてものをやらせてくれたの…」
その後、俺達はそのまま誠ん家までつっぱしり三時間ぐらいずっと家の中であれこれ本を読んだりゲームをしながら駄弁ったりしていた。正直体を動かせなくてイライラしていたがそのイライラも退屈も吹っ飛ぶことを今さっきしていたのだ。
「いや、だってやりたかったから…」
「だからっておれと一緒にやる必要ないじゃん!?」
誠は震えた声で俺に鋭いツッコミを入れる。いや、まあなんでこんなに誠が怖がっているのかというと…
「エイエンとかいう最初和み系なのかなって思ってたのに急に怖くなるホラゲーとか…一番無理だよ…」
「俺はそういうのドキドキして好きだけどな」
おまけにびっくり系だったので絶えず誠の悲鳴が部屋に響いていた訳だが。
そんな誠を見るのが少し面白いと感じてしまっていた俺は友達を恐怖のどん底に叩き落とした事を反省しようとしている。
すまんかった。
「まぁ、いいや…もうお母さんも帰ってくる時間だしそろそろ帰る?」
「そうする、外も暗くなってきたしな」
窓から見える空の色は赤と紫が混ざった少し怪しくも不気味な雰囲気を醸し出している。
正直少し怖い。
「ひかる、半分くらいまで送ってこうか?」
「そうしてもらいたいけど誠帰り大丈夫か?」
「…多分大丈夫」
あ、これは大丈夫じゃない感じだ。
「…大丈夫じゃないだろ。俺一人で帰るよ」
「う…ごめん…」
きっと一緒に帰った後怖くてその場から動けなくなりそうだからな。
それだけは辞めてほしい
そう考えながら俺は部屋に所々散らかっている荷物をまとめ立ち上がり
「じゃ、また明後日な〜」
「うん、ばいばい」
誠の部屋を出て玄関の扉をがちゃりと開けた。
「……」
扉を開けるとぶわっと夏の熱気が俺の身体を包み込んだ。
ばたんと扉を閉め自分の家に向かうため足を運ぶ。
「あっぢぃ…」
まだ少ししか歩いていないのに汗が流れてきた。夏は好きだけど夏のこの居心地の悪い暑さだけは勘弁してもらいたい。
怪しく揺らぐ空の下俺は早く帰りたいという気持ちを心に抱き早足で家に向かった。
…
暫く歩いてまたさっきと同じ様な追い風が俺の身体を押し上げた。
「んっ…」
…さっきもそうだがなんか変だ、この追い風。周りには木や少しの風で揺れる様な旗が結構あるのに全く音を立てずに、しかも一切揺れていないのだ。
流石におかしいだろ。
「…もう慣れたけどな」
「何が慣れたのー?」
「うわっ!」
急に俺の後ろで聞き慣れない声がした。えっちょ、誰っ。
恐る恐る振り返って俺は声の主を確かめる。
そこにいたのは黒髪にウェーブがかかり緑の髪留めを二つ着けている以前俺が探していた人物。
「あ…やっぱり小鳥遊くんだ…」
「永倉か、なんだびっくりした…」
画面の噂の被害者、永倉 翔がそこに立っていたのだ。
ん?なんでここにいるんだ?
「永倉、なんでここにいるんだ?」
「あ、あのね…ボク陸くんの家に遊びに行ってたんだ…」
弱々しい声でそう永倉は答えた。成る程、だからこんな遅くまで街を丸いているのか。
「ふーん…楽しかったか?」
「うん!すっごく楽しかった…!」
そりゃ良かった。
俺は少し微笑みながら永倉の右隣へ移動した。
「こんなとこで話してないで早く帰ろうぜ?」
「う、ん…」
そう返事をし永倉と俺は自分の家へ向かうため足を動かした。
…ふと俺は永倉の方を向く。
髪の隙間からちらちらと見える右耳には真っ赤な傷痕があった。
あんまり聞くべきではないがどうしても気になるので俺は問いかける。
俺は永倉の腕をつんつんと突き訪ねた。
「!…永倉、右耳どうかしたか?」
「あっ…こ、これね…いつの間にか怪我してたんだ…」
そう言い永倉と俺は前を向き直した。
いつの間にか、か。
きっとあの時転んで怪我でもしたんだろう。
「治ると良いな」
「……」
?
反応が無い。俺変なこと言ったか?ただ心配しただけだと思うが…
「あ、俺なんか変な事言ったか?」
「……」
返事が無い。無視か?
俺はさっきよりもでかい声で永倉の名前を呼んだ。
「なーがーくーらー!?」
「へっ!?あっ…ご、ごめん聞こえなかった…」
はっとして俺を驚いた顔で見つめる。聞こえなかった?周りは物音一つしてないのに。聞こえないなんておかし…
まさか
「…お前もしかして」
「聴こえないんだ、右耳…」
まじで…
予想が当たった。耳聴こえない人とか初めて会った。
てか、以前までは両耳聴こえてたんだよな。気持ち悪くないのだろうか。
「なぁ、な…!」
また質問をしようとした所で勢い良く横風が吹いた。
「ひえっ…」
「うわった、と…!」
急に吹いたので俺は永倉のいる方へよろけて転びそうになる。
「あ、あぶなっ…」
「よけて!!」
避けてという忠告もそれは無駄になり、俺は思い切り永倉と衝突してしまった。
「いたい…」
「うわっ、ごめん永倉大丈夫か?」
俺は素早く起き上がり俺のクッションになってしまった永倉を起こそうと手を伸ばす。
すると永倉も俺の手を握りゆっくりと腰を浮かせた。
「小鳥遊くん…」
「だからごめんって……ん?」
俺は永倉の後ろに広がる光景を見て眉間にしわを寄せた。
ここだけ空気が違うような、そんな気がするさっきも見た家と家の合間だ。上手く影になっていてより不気味さを増している。
「え、え、どうしたの…?」
そう言い永倉も俺の向いてる方向へ目を向ける。すると永倉は俺の後ろに隠れてしまった。
なんだ?
「た、小鳥遊くん離れよ?なんかここすごい嫌な感じがするよ…!」
ああ、やっぱ永倉もわかるか。だよな、だよな。ここだけなんか変だよな。
ぶわっ
「うわっ」
「ひぇぁ…」
また俺達を押す様に風が吹き上げた。
ちょっ、またよろけて…!
ぎゅっと目を瞑る。
俺達はそのまま家の影に突っ込んでしまった。
足音がする。
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