噂話
二話
「おはようございまーす」
聞き慣れた気怠い挨拶が耳に入る。中には挨拶すらしない奴もいる中、俺は席に着いた。
いつも通り日直が今日の予定を確認している。声ちっせー。
「……」
俺はうと、うとと首を揺らす。
ここ最近ぐっすり眠れていないのだ。色々非日常なことがありすぎるっていう理由もあるし、夜は廊下で足音が聞こえて気になって気になって仕方がないし…
「…っ…」
ごんと小さな音を立て俺の額は机に当たった。地味な痛みと恥ずかしさが交互に頭を埋める。
早く終わってくれ。
そう考える余地もなく俺は深い眠りに…
…
「起きろひかる」
べしっと背中を大きく叩かれ、俺はハッとして顔を上げる。
「あ、あれ…いつのまに終わって…」
「ぐっすり寝てたな〜…」
「…眠かったんだもん」
今の言い方は自分でも変だと思う。きっとあいつに聞かれてたらずっと弄られてただろうな。
「確かに朝は眠いけど少しは我慢しなよー」
「うぐ…」
そう言われながら俺は誠に頬をぐにーっと抓られた。普通に痛い。
それでも眠気は消えなかった。
ん、あ!これずっとしてもらえれば眠気も吹っ飛ぶかもしれない。
「誠もっと抓って〜…」
「Mか!まあいいけど」
少し気持ち悪がられながら俺は両頬を誠に思いっ切り抓られた。
これで…
「いひゃいいひゃいひゃい!!」
「もっと抓ろって言ったのはひかるだろー!」
俺は頬を抓っている手を掴み、強引的に突き放す。
頬がひりひりする…
「あ゛ー…」
「ごめん」
俺は頬をさすりながら濁声を上げる。
まあでもさっきより目も覚めたことだし、良しとしよう。
そんな事を頭の中で言いながら俺は一時間目の数学の用意をする。
こりゃまた眠くなりそうな予感。
早く家に帰りたいと心の中で涙を流しながら俺は席を立ち隣の教室へ向かった。
…
怠い
また最初から最後まで座りっ放しだった。休み時間とお昼休みが心のオアシスと思えてきた。
「まじ退屈…」
俺は自分の席で荷物を纏めながらそう呟いた。
「ひかるはほとんど寝てたじゃない」
「うるせえなゆりか。俺はお前みたいな優等生じゃないんだよ」
誠の隣の席にいる黒髪つり目の女子に吐き捨てるように言う。勉強とかどうでもいい…ってわけにもいかないが。
「ひかる、ちょっと国語のノート見せて」
こいつ…!
俺のへにょへにょになって読めない文字を見る気だな。
「やなこった」
「ええーなんでー…まあいいけども」
少し残念そうな顔をして誠は諦めた。そんな顔したって見せねーよ。
「あ、そうだひかる。明日おれん家に遊びに来ない?」
誠は俺に向かって尋ねる。そういえばここんとこ誠とあまり遊ぶ機会なんてなかったからな、久し振りに騒いでやろうか。
「行く」
「ん、おっけー」
いつも通りの返事をして、誠は前を向く。そろそろ帰り学活も始まる頃なので俺も静かになろう。
「さようならー」
朝よりはっきりとした挨拶が口から出る。いつも帰る時間になると目が覚めるのは何故だろう。
「ひかる帰ろー」
「おう」
俺は誠に連れられ教室をばたばたと出た。
下駄箱に着き、上履きを脱いで靴を出す。
そういえばさっきから外で何かが落ちる音が…
「うわっ、雨降ってんじゃん。傘持ってきてねー…」
朝あんなに暑かったのに、この時期になると天気が急に変わるから嫌いだ。
仕方なく俺は靴を履き、外を眺める。
まじでどうしよ…
「ひかる、傘一つだけだけど入る?」
ぽんと肩を叩かれ俺は振り向く。
あ、まじで。入れてくれんの?
「いいのか?」
「ああ、もちろんいいよ。ただ…男同士で相合傘になるけど」
んん…気にしなければどうってことない。と言うわけで入れさしてもらおう。
「いいよそんなん気にしなきゃいい話だろ?濡れるよりマシだ」
「ん、じゃ行こ」
そう誠は言い俺を傘に入れながら歩き出した。
ぱしゃ
ぱしゃ
水を跳ねさせながら俺達は家を目指し歩く。
「そういえばさ誠」
「なに?」
ふと頭の中で浮かんだ疑問を俺は誠に問い掛ける。いや、多分応えられないだろうけど。
「弓人ってさー…何者なんだろうな」
「悪魔」
「……」
会話が終わってしまった。
ま、まて…えっと…
「そうじゃなくてさ、悪魔なのはわかるけど普段何してんのかなーとか親とか兄弟とかいるのかなー…とか」
「あ、あぁ…そういう。おれも出会って6ヶ月しか経ってないからなー」
まだそんくらいしか経ってないのか。俺より前に知り合ってるのに。
ほんと、
どこに住んでるかとか、何の仕事してんのかとか知りたい。
いつもはどっからともなく現れるのにこう言う時に限って出て来ないの。なんでだよ。
「…いつか絶対問い詰めてやる」
「あ、ひかる着いたよ」
いつのまにか家の前に着いていた。よかった、雨に濡れないで済んだ。
「あ、ありがとな誠。気を付けて帰れよなー」
「うん、ひかるもまたねー」
俺は手を振り誠を見送る。
「…へっくし」
小さなくしゃみをひとつ。ずっとここにいると体が冷えてしまうから家に入ろう。
がちゃり、と扉を開け俺は家に入った。
なんか鞄の中が震えてる気がする。
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