噂話 一話 「鞄が重たい…ただでさえ外は暑いのに…疲れる…」 そう愚痴を零しながらとぼとぼと俺の横を歩いているのは俺の親友。誠だ。 確かに今日の鞄は重い。金曜日は五教科持ってこないといけないからな… 「今日は五教科もってかないといけないからな、そりゃ重いわ」 「………」 …? 誠がこちらをじっと真顔で見つめている。え、俺なんか変な事言…あっ。 「ダジャレ?」 「違う!!!」 さっきのは全然ダジャレじゃないだろ。なんかすっげえ恥ずかしい。くそっ。 そう思っているとははは、と笑いながら誠が俺の肩をぽんと叩いてきた。 「おれもそういうの気にしちゃう人だから。ごめん?」 「いや、別に謝ることじゃないし…てかなんで疑問形」 そうくだらない話ばかりをしながら俺たちは暑く嫌な熱が渦巻いている通学路を歩いた。 うわ、彼処の路地裏とか絶対蒸し暑いだろうな… 見るだけでも嫌になる。 … 「やーっと着いた…」 「なんかいつもより長く感じたな」 何分か経った後俺達は学校に着いた。 校門を抜け玄関に入り、俺は靴を脱ぎ捨てる。 下駄箱では一年生や三年生の挨拶をする声があちこちから飛び回っていた。 俺はめんどくさいから挨拶なんかしない。 多分 「ひかる、早く教室行こー」 挨拶に気を取られていた。別にまだそんな急がなくてもいい時間だろ、まだ20分もある。 「そんな急がなくていいだろ」 「だって他の子が教室で座っている所にドア開けて入りたくないじゃん…」 ああ、なんとなくわかる気がする。他の奴らがもう来てる中一人でドア開けて入るのってなんか恥ずかしいよな。 「…まあいいや、行くぞ誠」 そう言いながら俺は誠の鞄を引っ張った。 「引っ張らないで〜!」 がらり とドアを開ける音が耳に入る。 「あ!小鳥遊と黒井おはよー!!」 「おはよ、渡」 「おはようー」 渡のでかい声が教室全体に広がる。 朝からよくもまあこんなに声が張れるもんだな。 ぱたぱたと上履きが音を立て、俺は自分の席へ向かいどすっと座った。 「……」 まだ教室には俺と誠と渡の三人しかいない。早過ぎたか? 教室を見回しながら自分の鞄を開け、教科書とノートを道具入れの中に突っ込んだ。 「……あ」 ふと、鞄の中に目を引く物が入っていることに気が付いた。 そうだ、昨日の夜この本鞄に突っ込んだんだったな… まあいいや、めんどくさい。なんとかなるだろ。 そんな事を思いながら俺はその本を開いた。 相変わらずその本にはわけのわからない文字が並んでいて、俺の頭をオーバーヒートさせる。 まじで誰か翻訳求む。 「よ、小鳥遊」 本を覗いていると上から声がした。 この少し掠れてる低い声はもしかして。 「愛田かよ。は、てかお前一組だろなんでここにいんだよ!!」 この学年では他のクラスに勝手に入ってはいけない決まりになっている。普段入らんし別にこの決まりいらないと思うけどやっぱり入って暴れる奴がいるらしい。 迷惑極まりないな。 「いいじゃねえか別に、久瀬もまだ来てないんだしさ。怒られねぇよ」 「久瀬先生しつこいぞ…見つかったら休み時間呼び出しだぞ?」 「…ん、ま、どうにかなるだろ。」 呼び出しという言葉に反応したのか少し声が戸惑っている。 職員室に呼び出されて他の先生もいるなか説教されるのは誰でも嫌だしな。恥ずかしいし。 「ところで、お前それ何の本なんだよ?見るからにわけわかんねえ文字しか見えねえんだけど」 愛田はふと雑に俺の机の上で広げられた本を見てそう言った。 誰からもわけわかんねえ文字に見えるだろこりゃ。 「あーこれ…なんか家の廊下に落ちてた」 「は、こわっ」 それを聞いた愛田は少し眉にシワを寄せ、吐き捨てるようにそう言った。 そして奴の中では会話が終わったと感じたのだろう、ばたばたと教室を出て行った。 普通は今みたいな反応なのだろうけど、俺は別に気にしない。多分自分が慣れ過ぎてどうでもよくなってきているんだろう。 「あ、ひかるまだその本読んでんの」 前の席に座っていた誠がこちらに話し掛けてきた。 誠には何度もこの本を学校で見せているがやはり何語かわからないらしい。お手上げ! 「いや、だってなんか勝手に開いちゃうというか、読めんし」 そう、ふと本に目を遣るといつも本は開いている状態で放置されているのだ。 まあ、それだけ聞けば風の所為だろ、とか開きやすくなってるだけだ、とか思うだろうけど。 それに。 「必ず同じページが開かれてるんだよなぁ…」 「それ絶対可笑しいだろ」 そりゃ可笑しいわな。絶対同じページ開くとかあり得ない。 そんで今もそのページをじっと眺めているだけなのだが。さっぱりである。 「59ページと60ページ…」 「これなんだろ?」 誠がそう言うと60ページの上段にある挿絵の様な物を指差した。 「俺もずっと見てるけどさっぱり…」 この角張っていたり丸かったりする黒い塊みたいなのはなんだ。 「なんか石みたいだね、こっちは宝石に見える」 そう言い次はそれの下にある挿絵を指差した。確かにこれは宝石にみえる。他の絵と違ってやけに色がハッキリとしているし、右端にあるのなんて輝きがあって俺が見ても綺麗だと思えるぐらいのものだ。 「まあ読めなきゃ意味無いんだけどな」 「それな」 俺と誠で少しへらへらと笑い、気にしていなかった教室を見回す。 するともう殆どの生徒が登校していた。時間もそろそろチャイムが鳴る頃である。 「もうすぐ学活始まるしまた後で話そ?」 「そうだな」 そう俺は言いずっと眺めていただけだった本を鞄にどすっと突っ込んだ。 「相変わらず雑…」 「別にいいじゃんか」 ぶーと俺はめんどくさそうにそう言う。 そして朝一番のチャイムが鳴った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |