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噂話
八話



「早…1……番し…!!」

「…………しろ!…倉!!」

「…ん……の…?」



冷たい。
近くで声が聞こえる。

…何してたんだっけ。





そうだ、水。

誰かに引っ張られてそのまま水ん中に引き摺り込まれて。

そのままゆっくりと沈んで…

それから…









「ひかる、ひかる!!」


俺を呼ぶ声が聞こえる。

あれ、俺死んだんじゃ…




「………!」

俺はゆっくりと瞼を持ち上げ、目を開いた。

一瞬光で眩んだがすぐに視界は広がり、よくある白い天井と俺の一番の友達の顔が入ってきた。

「…ま、こと…」

俺は精一杯声を出し、誠の名前を呼ぶ。
掠れて上手く声が出ない…

「!…よかった…起きないかと思った…」

名前を呼ばれ安全が確認されたからか、誠の声はさっきよりもとても緩み溢れるように声が出た。



「起きたか」


ん?
聞きなれない声が部屋に響く。

その言葉と同時に上履きと床が擦れる音が段々と俺の方に近付き、ぴたりと止まった。

「……」

「…なにじろじろ見てんだよ」

そう吐き捨てる様に言った彼は、オールバックに少し髪の毛を垂れさせ金髪のメッシュが入っているいかにも不良という感じの奴だった。


「…お前誰?」

「はーオレのこと知らねえのかよ…ま、転入生だから仕方ないか」

吊り目の三白眼をギラギラさせながらこいつはそう言った。
結構有名な奴なのか?

「オレは愛田 陸。まあその、見た目でわかるだろ?」

「…まあ、少しは…」

やはり不良か。

でもなんでそんな奴がここにいるんだろう?
他人の事なんか心配してないで他にやることありそうに見えるが…

「愛田がパソコン室の前で倒れていた所を助けてくれたんだよ」

あ、そうなのか。
てことはこれが命の恩人…ってやつか?

「…ありがとな…」

「ふん……」

俺はそっと愛田にそう呟いた。
てかなんだこいつ態度ムカつく。少しはなんか返事でもしたらどうだクソ。

…そういえば永倉って奴結局どこに…






ピー…ポー…







「…!」

不意に外から救急車のサイレンが聞こえてきた。
救急車…誰か怪我人でも出たのだろうか。

「っ……」

「愛田?」

サイレンが聞こえた瞬間、愛田は窓の方を向き、少し悲しそうな表情を見せた。

「…オレの所為だ」

「は?」

オレの所為?何が?
そう思った瞬間愛田は叫ぶ様に。


「翔だよ!!オレの所為であんなことに…!!」


翔…翔って。

「永倉のことか…?」

それは当たったようで。

「ああそうだよ!!オレの所為で翔があんなことになった!!!……翔…」

愛田って永倉と仲が良いのか?それよりも意外と心配性だな…

え、てか、あんなことってどんなことだよ。

「…永倉になんかあったのか?」

俺は誠にそう聞く。

「そうらしい。なんか息してないって…」

「は?息してない!?」

思わず起き上がり声がでかくなる。おい、息してないってどういうことだよ。

「えっ、え…」

普段身近な人がそういうのにならないからか、戸惑いが隠せない。

つまりそれって心肺停止…?


「え、てか愛田永倉と何かしたのか?」

俺はそう愛田に問い掛けた。すると愛田は辛そうな表情をし。

「…喧嘩だよ。つまんねぇ喧嘩。そんなことするつもりなかったのに翔が勘違いして…」


…あまり深くは聞かないほうがいいだろうか?
にしても喧嘩でこんなことになるとは。

「…なんで愛田の所為で永倉が倒れたんだよ、理由がわかんねえ」

喧嘩と永倉が倒れたとの関係がわからん。なんでこうなった。

「…4日前、翔は弱虫でひ弱だから舐められないようにするにはどうすればいいかって俺に聞いてきたんだよ」

「はぁ…それで?」

俺は話を続けろとでも言うような物言いで愛田にそう言い放った。


「っ…俺は今のお前が一番良いって言いたかった、けど一周回ってバカにしてる様な言い方になっちまったというか…」

まぁ愛田の口調ならなんでもそう聞こえるかもしれないな。
失礼だけど

「その後なにか舐められないような度胸試しでもしてみろとかんなこと言っちまって…!」

また愛田は辛そうな表情をする。
…丁度4日前は画面の噂が広がった期間だったか。それでパソコン室に行ったのかもしれない。






「…死んじゃったのかな…」

「やめろ」

あんまりそういうことは言うもんじゃない。
シャレにならないから。



…まじで死んでたらどうしよう。
もしかしてあの水面に立ってた人影が永倉だったのか?

…助けを求めてたとか。
ないか。








「いや、ほんとに彼は助けを求めてたみたいだよ?」

いきなり天井から声が聞こえた。
この喋り方と声色…まさか。

俺はそっと上を向いた。



するとやはりというか、いつものアイツが翼を羽ばたかせながら俺の上を飛んでいた。

「弓人!」

「やぁ、ちょっとお届け物をしに来たんだけど…」

お届け物?悪魔が人間の俺達にお届け物なんて変な事だ。てか、弓人は普通に無事だったのか。


「…お届け物って?」

誠はそう弓人に話す。あったとしてもロクなもんじゃないだろう。


「これ、まあ誠に見せてもわからないと思うけど」

そういい弓人は手のひらサイズの小瓶をチラつかせた。
その小瓶の中にはぼんやりと青白く光る玉のような物が入っていた。

あれ?これ俺水中にいたときに見た…


「そ、ひかるが見たそれだよ。沈んでたから取ってきたんだ」

…もう触れないでおこう。取っても大丈夫なのだろうか。

「取らないといけないからね、これ」

ふーん…ま、俺には関係ないけど。


「ねぇ弓人、それって誰宛の届け物?」

そういえば聞いていない。そもそもこの学校の人宛名のか?

「…そこの彼宛だよ」

そういい弓人は愛田の方を向き、静かに微笑んだ。
愛田にこれを届けるのか。

…てかその姿で対面して大丈夫なのかよ。

「別に良いよ」

いいのか。
弓人はそういい愛田の元へ静かに近付いた。






「愛田くん、君に渡したい物があるんだけど」

そう言いぽんと愛田の肩を叩く弓人。
それに気付き愛田は振り向いた。

「は?なん…っ!?!」

愛田はあまりにも見慣れない顔を見たからか、目を見開いて驚いていた。
そりゃ、そういう反応するだろうな。人間がいる中一人全く別の生き物が紛れ込んでいるのだから。


「っ…な、なんだよ!」

少し怖がっているのか、声が震えている。
それでも愛田は強く声を張り上げた。

「君どうせ病院へ翔君のお見舞いに行くだろう?だからこれ、持ってってあげてよ」

そう言い弓人はさっきの小瓶を愛田の手に握らせた。

「っ……これをどうしろってんだよ、もうあいつは戻ってこないんだぞ…」

「それはどうかな、その小瓶の中身を彼の口元に零すといい、それで彼はきっとまた君に会えるよ」


愛田の口に人差し指を置きながらそう言い残し、弓人はふわりとその場から消えた。
何がしたいんだあいつは。




愛田は小瓶をじっと見つめている。


「………」

「愛田…」

俺が名前を呼んだ後、愛田はすぐに走り出しこの教室を飛び出した。

「あっ、愛田!?」

「このまま病院に行くのかな…」

行動に起こすの早過ぎだろ、まだ五時間目じゃ…
そう思い俺は時計を見た。

「4時半…」

もう下校時間じゃないか、相当眠っていたんだろう。

「ひかるどうする?」

「…帰る」

ベッドからそっと出て立ち上がる。上履きを履き、自分の教室へ向かった。

「行くぞ誠」

「う、うん」

俺は誠を連れ、この教室を後にした。









「ねえひかる、これでよかったんだよな?」

「よかったんじゃね、だって永倉も見つかったんだから」

「だよな、うん…」

多分永倉は病院で目を覚ます。そんな気がするから。


にしても、なんであの学校で弓人がいたんだろう。あの本はなんだ?

…もしかして弓人の住んでる場所って俺達と別の世界にある?


まさかな




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