噂話
七話
ぐちゃぐちゃと嫌な音を立てながら真っ赤の廊下を進む。
もう少しで精神崩壊してしまいそうな程気持ち悪い光景が目の中へ、脳裏へ焼き付いていく。
俺達はいま校舎のずっと向こう側に設置してあるプールに向かっていた。
「走り辛い〜…」
彼は悪魔だからか普段と変わらない。
いや、普段より少し機嫌が良さそうな口振りでそう言った。
多分こういうのは慣れっこなんだろう。
俺だって慣れたい。
「帰りたい…気持ち悪い…」
「我慢しろ誠、俺だってもう色々とやばい…ぅ゛…」
周りの景色に耐えられず吐きそうになる。
天井には敷き詰められ、不規則な形をした幾つもの目玉。
壁は血管のようなものが浮き出て、床はとても柔らかい何かでできている。
もう色々とおかしい。ほんと。理性がぶっ飛びそうだ。
「っ…揺れる…吐く…」
誠はもう限界そうな顔をしている。てかここで吐かれたらすごい困るぞ。
それより吐瀉物を見たくない。吐くなよ、吐くなよ…
「別に吐いてもいいけど服とか汚されるの困るから下ろしちゃうからね」
「それは嫌…」
それを聞いた誠はぐっと我慢するように自分を抱えている弓人の腕を掴んだ。
俺もここで下ろされるのは絶対嫌だ。
こんな何の肉片かも知らない床を踏みたくない。
そんな俺達を無数の目が見つめていた。
「それにしても随分と長い廊下だね…」
この真っ赤な空間を廊下と言えるのか?
いや、ツッコミどころはそこではない。
「確かに長過ぎるな…」
俺も同じ疑問を口にする。道が長くなるとかもう何回目だよ…
「もしかしたらこのままずっとプールに着かないかもしれないね」
弓人は少し不安気にそう呟いた
この状況でそんなこと言うなよ。
…ほんとにこのまま着かないんじゃないかと思えてきた。
それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。
そう思うと本能なのか、さっきまで動くことさえしなかった体に力が入り
「ちょっ、暴れないで!」
「もう無理だ!こんなとこにずっといてられるか!!」
するり
「あっ」
腕から抜けてしまった。
まずい。顔から落ちる。
嫌だ。
「っ……!」
俺は思い切り目を瞑る。
数秒経った後、俺の顔に嫌な感触が
「……?」
しない。
俺はゆっくり目を開けた。
なんだこれ、辺り一面真っ黒…
「ん゛っ……!?」
うわっ
これ水中…!?
息がっ…
俺は空気を求め必死に腕と脚を動かし水上へ向かった。
「っ……!」
早く、早く…じゃないと息ができない。
「…ぁ……」
いくら泳いでも辿り着けない。
嘘だ、直ぐそこに空が見えるのに…
…もうダメかもしれない。
…
バシャッ
「ッ…はっ…ひかる、ひかる起きて!」
…声が聞こえる。
あれ、俺水ん中にいてそれで…
「…げほッ…ぅ゛…あ、あれ…ここどこ…」
「よかった、起きた」
「し、死んだかと思った…」
俺の目の前には弓人と誠が俺をじっと見ていた。
てか、死んだって…
それより、
俺は今何処にいるのかを確認するために体をゆっくりと上げ、辺りを見回した。
「真っ黒……」
周りはさっきの水中のように辺り一面真っ黒だった。
ただ俺達が倒れて、触れている床だけは普通の色をしていた。
「光なんて何処にもないのになんで床はちゃんと見えるんだろ...」
誠はそう言った。光がないと物は見えないんだったっけ?
…んなことはどうでもいい、多分今俺達がいるこの場所は。
「プール?」
「だろうね」
目の前には水が張ってある大きなプールがあった。
多分目的地はここでいいんだろうけども、永倉らしき人影はない。
「…いないね」
「ん…」
どうする俺。いないとかダメだろ。
「あ、あれ…」
誠はプールを真っ直ぐ指差した。
指の向こうにいるのは。
「…さっきの人?」
廊下で倒れていたあの人が水面に立っていた。なんだ、こっちをじっと見て何か伝えようとしている?
「……!」
いきなり弓人が俺達を抱き締めてきた。
な、なんだ急に…
そう思っていると
ぐいっ
「うわっ!?」
「ひっ!!?」
水面から急に手が出て来て俺達の脚を引っ張って。
どぼん
また水中…
いつのまにかまた誠と弓人はいなくなって俺一人になっていた。
もうウンザリ過ぎる。
?
水中の向こうに青い光が見える。
なんだあれ。
それでも考えてる暇なんかなくて、俺はそのまま目を閉じて。
深く深く水中へ沈んで行った。
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