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噂話
六話


俺は今弓人に腕を椅子の様にされながら抱えられている。
もうあの音は聞こえてこないしそろそろ下ろしてくれてもいいだろ。

「弓人、そろそろ下ろしてくれないか?」

「だめ、まだ下ろさないから」

む…

なんで下ろしてくれないんだ。自己中だと嫌われるぞ。

「自己中で結構」

…ムカつく

俺は不満を抱きながらも弓人に抱えられたままじっと下ろしてくれるまで待った。


「お腹キツい…」

誠は俺と違い、丁度お腹の辺りをぎゅっと腕で締め付けられている状態で抱えられている。

そりゃ辛いわな。

「あ、ごめんね誠。でも少し、あと少しだけ我慢しててね」

「ぅぐ…」

我慢できないから今キツいって言ったんだろ…

「あ、そっか」

また心を読まれたようだ。
そっかじゃねえよ!


にしても男2人を軽々しく抱えられるとは…
結構細い身体してるクセに腕力はあるんだな。





「てかいつまでこんなことされてなきゃいけないんだよ」

俺はそう口を動かした。
少し恥ずかしいぞ。

「じゃあ下りる?」

「恥ずかしいから下りる」

そう言うと弓人はそっと廊下の床に俺を下ろしてくれた。

ほんとは抱えられているときもう少しだけこうしていたいという気持ちを抑えながら。





にしてもさっきの変なのはなんだったのだろう。
あれが音の正体なのはわかっている。

人の手のようなものがもがいているように見えたが…






「…おれも下りていい?窮屈なんだけど…」

俺が下りたと同時に誠もそう強請った。
どうやらこうされるのはあまり好きではないらしい。

「誠も嫌なの?」

それを聞いた弓人は不満そうにそう誠の耳元で小さく囁いた。

ほんと好きだなそういうの…

「ひっ…や、やめろ!」

誠は顔を少し歪ませながら小さく悲鳴を上げた。
その次の瞬間、弓人に拳が飛んできた。
ちょ、それはまずいんじゃ…!






「おっと、危ないなぁ」

一瞬の出来事だった。

飛んできた拳を弓人が掌で受け止めたのだ。
それを見た誠はしまった、とでも言いたそうな顔で弓人の顔をじっと見つめている。

何故か少し自分もぴくりと体が震えた。

「あっ、ごめ…!」

誠は咄嗟に謝る。
…自分が言うのもなんだけど流石に許してくれないのでは。

すると弓人は誠の拳を包んだ手をそっと下へ下ろし

「まったく、君みたいな子が殴るなんて乱暴なことしちゃ駄目だろう?」

微笑みながらそう言った。
そう言われた誠は顔が引き攣っている。

「うわ…」

流石に今の台詞は引く。男に言うもんじゃないだろ。

「…まぁ今はこんな事してないで早く彼を探さないといけないんだけどね」

わかってるならそんな茶番してないで早く足をうごかして探せよ。
そう言いたかったが我慢して口をぐっと閉じた。


「てか良い加減下ろして…」

まだ抱えられている誠はちょっぴり泣きそうな声でそう弓人に向かって呟いた。

「もう少し…駄目?」

弓人もそれに抵抗する。
こいつ絶対に下ろさないつもりだ…

「駄目、早く下ろして!」

「ちょ、騒ぐな」

騒いだら今比較的平和な周りがまた恐怖に包まれる予感がする。まじで騒ぐな。

「…そう強請っても下ろす気なんてないけどね」

まだ握っている誠の拳と自分の指を絡ませながらぎゅっと握り締め、思った通りの言葉を口にした。

絡まった指を見た誠はさっきよりも更に嫌そうな顔をし

「や、やめろって!!!」

叫んでしまった。

体がびくっと跳ねる。嫌な予感しかしない。
窓の外が真っ赤になり、重たく冷たい空気が俺達の周りを渦巻く。

「弓人…」

「僕の所為なら謝るよ」

彼の謝罪を求めるが今はそんなことしている場合ではない。
ここから離れなければ。

「ごっめん…おれの所為で…!」

「誠が謝る必要ないって…弓人があんなことするからこうなったんだ」

「だからごめんって…」

…後でしっかりと謝ってもらわなければ。
とにかく今は逃げよう。

俺はすぐそこの教室にむかって走り出した。
それに続いて弓人も走り出す。


嫌な空気も追いかけてきた。




「っ……」

勢い良くがらりと教室の扉を開け、その中へ入る。

「もうやだ…」

弓人にぎゅっと抱き着きながら誠はそう言う。それを慰めるかのように弓人は誠の背中を撫でた。
ここにきてから何回こんなことになっただろうか…





にしてもこの教室、とても暗い。
窓の向こう側も見えない、教室の中も少し目を凝らさないと見えないぞ。







ぱち









不意に灯りが付いた。

でもその灯りの色はとても真っ赤な血の様な赤色で、その色で教室中はいっぱいになった。


「目が…」

かなり目に来る。開けてられない。
俺は自分の手で目を覆い俯く。



「あー…ここにいるのもまずいかもしれない」



そう彼は俺に言葉をかける。
もう真っ赤なだけでもいちゃ駄目だろ。そう言うために手をどけ彼を目に入れた。


…何故か彼の目は教室の天井に向けられていて、じっと何かを見つめていた。


…とても見たくないが俺は天井に目をやる。









「うっわ!!!」



気持ち悪過ぎて叫んでしまった。

それに反応して誠も天井に目を向ける。

「無理無理無理ー!!!」

大きく不規則な目の様なものが天井に敷き詰められ、張り付いていたのだから。



ぶつぶつとした模様に見えくらりと体が揺れる。俺はこういうのが大っ嫌いだ。




目はきょろきょろとあちらこちらを見回していたが急に此方をぎょろりと見つめてきた。

「…急いでここから出てひかる」

何かこれより酷い事が起きるのを察したのか彼はそう俺に言った。

俺はそれに従い扉に向かって走り出し、扉をまた勢い良く開ける。



扉の先に待っていたのはまたたくさんの敷き詰められた目だった。

「う゛っ…!」

思わず吐きそうな声を出してしまい、座り込んでしまいそうになる。




ぱちんと指が鳴る音が耳に入ってきた。




その音と同時に目も消えた。

「……?」

何が起きたのかさっぱり理解できない。


そう思っているとまた体が浮いた。

「ぼーっとしてないで行くよっ」

なるほど、今のは弓人の魔法か。
これであれを見ないで済む…

ほっと安心していると。











ぱしゃっ












「…!」


またあの音だ。かなり近い。

「っ……」

隣にいる誠は耳を塞ぐ。嫌な音だ。


ぱしゃ、ぱしゃとどんどん近付いてきている。もうすぐそこだ。




俺はぐっと身構える。





すると急に弓人はぴたっと止まった。なんだ、何があったのか。

俺は前を向く。






「なんだあれ」





目の前には俺と同じくらいに見える男が倒れたまま此方を見つめていた。



その男の顔は暗くてよく見えないが、水でびしょびしょに濡れていた。

ということはさっきの音の正体はこれか。あの時見えた手の様なのもがこれなら納得も行くだろう。


「……」


男は何か伝えようと口を動かしている。

「…なに?」

耳が良いであろう弓人も聞き取れない様だ。早く探し人を見つけてここから帰りたいというのに…!








ぱちり








また真っ赤な灯りに包まれる。それと同時にあの男は消えてしまった。



消える間際、密かに彼が言っている言葉が耳に入ってきた様な気がした。



「ね、ねぇ…今あの子プールって言ってなかったか…?」


は?さっきの男が?プール?



「何言ってんだ、俺は助けてって聞こえ…」



はっと俺は気付く。

まさかあの男。


「ねぇ二人とも、この学校のプールってどこにある?」


急に弓人はそう俺達に問い掛けた。質問してる場合じゃないだろ。


「プールはおれ達の向いてる反対側!ずっと向こう側!!」


かなり焦っているのか誠は声が裏返っていた。

「うん、わかった。ありがと誠っ」

そう礼を言うときゅっと脚の向きを変え反対側に弓人は走り出した。


…プール?





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あきゅろす。
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