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噂話
四話


「……」

俺は息を呑む。ずっと扉の前に誰かいる。

「…何を見て……」

しばらく俯いてた誠も俺が見ている場所に目を向け、固まってしまった。

とても大きな、化け物のような影が映っているのだから。



「なに、あれ」

誠は俺にそう言い、俺の手を握る。

「わからん」

俺と誠はその影から目が離せなくなっていた。
周りにある中のただ一つだけの恐怖の対象だからだ。

いつあれが動いて消えるのかわからない。
もしかしたら中に入ってくるかもしれない。

そういう考えばかりが頭の中を埋めて行った。

「どうしよ…早くここから出ないと…」

「でもまだ永倉って奴見つけてないぞ」

俺がまたここに来たかった理由は永倉って奴を探したいからだ。

…絶対ここにいるって訳でもないが、一応探しに行こうと思っただけだ。

助けたいという訳ではない。

「えー…でもここにいるかわからないじゃんか…」

「そうだけど…探すだけ探そうぜ?」

「…うん」

俺がそう言うと誠は小さく同意の返事をしてくれた。
ごめん、怖い思いさせちまって。






「でもまずここから出ないといけないだろ」

「そうだな」

永倉って奴はこの教室にはいない。だからどこか他の場所にいるかもしれないんだ。

でもこの教室から出たら。

「また怖い思いしなきゃいけないのか…」

また何かに追い掛けられたりするかもしれない。

「っ…嫌だ…」

俺だって嫌だ。

「でもどのみちこの教室から出ないとこの変な空間からも脱出できないだろ」

「そうだけど~…」

俺がそう誠に向けて言うと、誠は嫌そうな顔をしながら返事をした。


















シャン

















「.…?」

「なんか今聞こえなかったか?」




















シャン


















「鈴の音か?」

「…嫌な予感がする」



















どん


シャン




















…段々音が近付いてきている。

何故か寒気がする。

「…なぁ誠、これさ…教室から出た方が…」

俺は誠に言う。

だが返事が帰ってこない。

俺はもう一度呼ぶ。

「…誠?」

俺は誠の方を向き、少し大きな声で呼び掛けた。

だが返事は帰ってこない。

…誠は教室の窓をじっと見ながらぽかんと口を開けていた。

何か見えるのだろうか。
俺も窓へ目を向ける。






「ーーーっ!!」

俺は声にならない叫びを上げる。






そこには一人、二人……五人くらいの手足が伸び口が裂けている女性が窓に張り付きながらクスクスとこちらをじっと見つめていた。



笑い声が教室に響き渡る。



俺と誠はその光景を見て絶句する。

いや、している場合じゃない。


「ひ、ひか…」

「行くぞ誠!」

ずっと握っていた手を引っ張り俺は立ち上がる。


あの影はまだずっと扉の前にいる、だがそれは右の扉だけだ。

俺は反対側の扉に向かい、勢い良く開けた。




開けた瞬間右にいた大きな影がこちらに向かって勢い良く突進してきた。


「うわっ!!」

「見たくない見たくない!!」

だが俺と誠はそれをスレスレで回避し、階段に向かって走り出した。







さっきから階段をずっと走っている気がする。もうこれで何回目だ。

俺は四階へ足を運ぶ。

「誠大丈夫かっ」

「だいじょぶ、だいじょぶ…」

全く大丈夫に見えないが、誠がそう言っているなら…

俺はそのまま階段を駆け上る。











四階に着いた。

なんだか階段を登っている時間が異常に長かった気がする。

俺達は階段のすぐそこに立ち止まる。

「誠っ……」

「だいっ…じょぶだから…」

辛かったら辛いって言えばいいのに。無理し過ぎだ。
いや、俺が無理させ過ぎたのか…

「ごめん…なっ…」

「…なんでひかるがっ…あやまるのさ…」

誠はその場に膝を付く。

…ここで休んでたらまずいんじゃないか?

そう思いながら俺は辺りをきょろきょろと見回す。


「…ん?」

何か本が落ちている。

…気になるがここから離れちゃいけない気がする。

「っ…なにあの本みたいなの…」

誠も気付いたようだ。まだ息を切らしている。

「…ひかる、取ってきなよ…」

「お前ほっといていけるわけないだろ」

「おれは大丈夫だからさ…」

とん、と背中を押され俺は落ちている本に向かう。

「……」

すぐ足元には黄色い本が置いてある。
俺はその本を拾い上げ、表紙を手ではらった。

「なんだこれ」

その本は両手より大きな本だった。

表紙に書いてある文字は今までに見たことのない文字だった。
いや、もしかしたら俺が知らないだけなのかもしれない。どこの国の文字だこれ…

俺はその本を眺めながら誠がいる所に戻った。

「誠、これ何語かわかるか?」

そう俺は誠に言う。

「ん?」

俺は持っている本を誠に見せる。

「これ」

「…なにこれ」

さすがの誠でもわからないか。
じゃこれほんとになんの本だよ…

そう思いながら俺は誠の方を見る。










誠の後ろに大きな影が立っていた。






「誠…後ろ…!」

俺は震えた声で誠の後ろを指差す。

「…な、に……」

誠は後ろの違和感に気付き、目を見開きながらまた固まった。
俺達はその場から動けない。

どうしたら。






ぐいっ







「あっ…!」

影が誠の手を思い切り引っ張った。

誠は階段を背に頭から落ちて


「誠っ!!」



俺は手を伸ばす。



「っ……」



だか手はあと少しのところで届かなかった。


まずい
誠はそのまま宙に落とされ


「助けっ……」



もうどうしようもない。
このまま俺は見ていることしかできないのか。






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