噂話
三話
…
先生の声が聞こえる。理科の授業は先生の話はかりで少々退屈だ。
授業全部話で終わることもしばしばある。
その話を聞きながら俺はノートに文字を書き込み続けた。
「…なぁひかる」
誠が俺に話し掛けてきた。授業中に話し掛けてくるだなんて誠らしくない。
「なんだ」
「今思い出したんだけどな、一組の男子が一人行方不明らしい」
まじで。
そんなん知らないぞ俺。普通騒ぎになるだろ。
「…俺知らないんだけど」
「そらそうだ。一組と先生達だけの秘密とか言ってたからな…」
秘密か。てか誠が知ってる時点でもう秘密でもなんでもないがな。
きっと話題にしないだけで殆どの人が知っていることなのだろう。
「その行方不明の男子って誰だ?」
まだ二組の生徒を把握することすら難しい俺が聞いてもあまり意味がないが、一応だれかは聞いとこうと思う。
「永倉 翔って奴だよ。おれもよくわかんないけどすごい怖がりらしい」
怖がりか、誠よりも怖がりなのか…
「…なんで行方不明なんだろな」
「さーぁなー…」
怠そうに誠は声を出す。
その話を聞いていたのか隣の男子が話し掛けてきた。
「その話なんだけどよ、なんか神隠しっぽいらしいぜ」
「神隠し?」
なんとも非現実的な言葉だ。…まぁ俺も非現実的な体験をしているがな。
「そ、なんかどこにいたのかさえさっぱりわからんらしい。親も必死に探してるらしいんよ」
はぁ。大変だな。
「じゃあ一生見つからないかもしれないな」
「ひかる…」
「ごめん」
少し失礼な事を言ってしまった。申し訳ない。
「あ、でもな」
ん?なんだ?
「なんか学校で永倉を最後にみた場所はパソコン室の前らしいんよ」
俺はパソコン室という言葉に反応した。その言葉を聞きなんとなくどこにいるのかわかった気がする。
「パソコン室か…」
「そ、パソコン室」
「……」
俺は黙り込む。
もしかしたらその永倉って奴も俺と一緒であの真っ赤な画面を見てしまったから別の世界へ行ってしまったのかもしれない。
…もう一度行けるか。
「…ひかる、あの噂となんか関係があるんじゃないか?」
そう思うよな。うん。
「あるに決まってんだろ」
「…なんでそんな断言できるんだよ」
…勢いで口が勝手に動いてしまった。
「何か知ってるなひかる?」
その通りです。
「……」
「後で話せな」
「…わかったよ」
俺は観念してあの時の話をしようと決めた。
…
授業の終わりのチャイムが鳴る。
やっと理科が終わった。途中でうたた寝してしまうところだった…
俺は席を立ち、教科書とノートを抱え教室に戻る。
「ふぁ……」
大きく口を開け欠伸をひとつ。休み時間中、少しだけ寝ようか。
すると隣に立っていた誠が口を開いた。
「ひかる、忘れてないよな?」
「…忘れてない」
嘘、少し忘れてた。
「じゃ、あの画面の噂のこと話してくれるか?」
「…あのな、俺理科室探してる途中でパソコン室の外で見たっていったじゃん?」
「うん」
俺はあの時起こったことを誠に話す。
…
「…で、いつのまにか学校だけど学校じゃない別の世界に行ってしまったと」
「別の世界かはわからないが多分そうだろ、永倉ってやつもそこにいるんじゃないかって…」
少し信じられないのか、誠は眉にしわを寄せた。
「…でももう行くなって言われたんだろ?誰かわからない奴に」
そうだ、もう一度行ったらもう元の世界には戻してもらえない。
「でも探すだけ探してみようぜ?」
そう俺が言うと
「…それっておれも行くってこと?」
誠がこう返してきた。
もちろん
「当たり前だろ?俺一人で行こうなんて思わねえよ」
「ですよねー!」
俺達は教室に戻る階段を登り、廊下を歩いて行った。
またパソコン室の前を通る。
「……」
誠がぴたりと立ち止まった。確かめるのは放課後でいいだろ。
そう誠に声を掛けようとした。
?
誠の表情が凍り付いている…
まさか。
俺は急いで誠の隣に立つ。
「誠…っ…」
誠の目が向いていた方を見る。
真っ暗なパソコン室の中、真っ赤な画面を映し出す一台のパソコン。
あの時と同じだ。
「…ひかる、あれ…」
「…俺が見たやつだ」
前よりもとても赤い。
誠は身の危険を感じたのか、目を逸らし俺の右側に立ち裾を掴んで来た。
やはり怖いものは苦手なんだろう。
ふと俺はパソコンの周りを見回す。
何か他に変わったことはないのだろうかと。
二回目となると慣れてしまうな。不思議なことに。
きょろきょろと周りを見回していると、誠がぽんぽんと左肩を大きく叩いてきた。
何かあったのだろうか。
?
あれ、なんか変だ。
誠は今俺の 右側 にいる筈。そして左手で俺の服の裾を掴んでる。
…一気に血の気が引いた。
とてもそれ以上の事を考えたくない。
「…ひかる、教室に………!」
誠は俺の方を向きそう話し掛けてきたが直ぐに口を閉じ俯いた。
少し涙目になっている。
とても振り向きたくない。
…俺は少し顔を上げまたパソコン室を覗く。
「ッ…!!」
赤い画面のパソコンの後ろに人間とは思えない大きな影が見えた。
まずい、やばい。
俺は誠の手を強く握った。
「ひっ…か…る…」
誠もそろそろ限界のようだ。今にも泣きそうな声で俺の名前を呼ぶ。
パソコンの後ろの大きな影がこちら側を向こうとした瞬間。
俺は誠の手を引き三階へと走り出した。
「ッ……」
「ちょっ、ひかるっ…!」
全力で俺は誠を連れ走る。
俺達は一切後ろを振り向かずに走り続けた。
誰もいない階段を登り、俺達の教室に続く廊下を走る。
走っている途中、何か黒い人のような物が横切った。
「はぁっ…!」
「ぅ゛っ…」
やっと教室に着いた。俺も走り過ぎて息切れしている。俺より体力の無い誠は吐きそうな顔をしていた。
「ッ…誠ごめん…」
「べつにっ…あんな怖いのから逃げられるならなんでもしてやるッ…」
…でも無茶はするなと言いたかったが、声を掛ける気力もなく俺は座り込む。
どうやらこの教室は何も出てこないようだ。
俺は少し安心していた。
教室の扉の前に誰かいるのが見えてしまった。
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