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噂話
七話


振り落とされそうな速さで一気に入り口に向かっている。



どんどんと建物が崩れ落ちて行く中、俺達は間一髪で建物の外に出た。


無事に戻って来れたんだ…。


俺はほっとして肩の力を抜いた。


「た、助かった…」

黒井もかなり緊張していたのか、表情が緩んでいた。

「ほんっと疲れた」

「あっ、力抜かないで…っ」

最後まで言い終える前にふらっと弓人がよろけて勢い良く地面に落ちた。

落ちた途端、俺と黒井は弓人の腕から抜けて地面に転がってしまった。


「いって…」

「しっかり捕まってって言ったじゃないか」

「ごめん」


地面に落ちていた小さな石に当たり頬を切ってしまった。
血が出てるようだ…。

「っ…」

「ひ、ひかる血が…」

黒井は運が良かったのか少し汚れただけだった。
良かった、怪我してなくて。

「ひかる、ちょっと見せてごらん」

弓人に言われるがまま、頬の切り傷を見せた。

「ん」

へっ

今、弓人が、俺の頬に

「うっわ、男同士でやることかよ…」

「え、駄目?」

そりゃ、駄目だろ…
男が男の頬にキスだなんて。

「なんで傷口にキスなんか…ひっ!?」

疑問を口にしていたら、今度は傷口をぺろりと舐められた。

「っ……」

いきなり舐められて体が震える。

「少しくすぐったかったかな?」

それより問題があるだろ。

「くすぐったい?それよりなんで舐めたんだよ!気持ち悪い……」

俺は少し涙声になっている。

「ごめんごめん、でも傷は治っただろう?」

口元に着いた俺の血を舌で舐めとりながら弓人は言った。

治る?ただキスをしただけで治るだなんて…
俺はそっと傷のある場所に手を当てた


「傷が、無い…」

「えっなんで」

ほんとになんで、の一言しか頭になかった。
一瞬で傷が治るなんて。

「どう?人間の君達から見たら凄いだろう?」

確かに凄いけど、その言い方はなんかムカつく。

「魔法みたいだ…」

「魔法みたいじゃなくて、魔法なのさ」

本物の魔法なのか…

「弓人、お前ほんと何者なんだ…?」

弓人に向かって俺はそう問いかける。
すると彼はこう返した。

「ただのなんの面白味も無い悪魔さ」

悪魔、か…
俺達人間にとっては敵のような存在なのだが、案外そうでもないのかもしれないな。





「…廃墟、崩れちゃってるな」

「そうだな、これどうするんだろうな」

気にも留めてなかったが、すぐ後ろにはさっきまで立っていた廃墟がボロボロになり跡形もなく崩れ落ちている。

「きっと明日、他の人間が騒ぎ立てるんじゃないかな」

「それでここ片付けられると良いんだけど…」

「…そろそろ帰らないか?」

ずっとここにいても仕方がない。
俺は早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。

「そうだね、もう帰ろうか」

「歩きたくない…」

黒井が駄々を捏ねてるのを見ながら俺は立ち上がる。
立つのが辛い…

「黒井、早く立てよっ」

「ぅぐ…ひかるは疲れてるんじゃないのか…」

辛そうな声を上げながら渋々と立ち上がった。俺だって相当疲れているんだ、早く帰りたい。

「疲れてるから早く家に帰りたいんだ」

そう俺が言うと弓人が口を挟んできた。

「あのさ、ひかるは誠のこと名前で呼ばないのかい?」

ばさばさと翼を羽ばたかせながら俺の横を浮いている。

「…別に名前で呼ばなきゃいけない訳じゃないだろ」

「僕は名前呼びの方がいいと思うけどなぁ」

んー…
恥ずかしくないのだろうか。

「恥ずかしくなんかないよ。僕も誠もひかるのことひかるって呼んでるじゃないか」

そういえばそうだな。

「ひかるもおれのこと誠って呼んでいいんだぞ?」

黒井もこう言ってる。
じゃあ…

「…じゃあ、これから黒井のこと誠って呼んでもいいか?」

「もちろん!」

誠は元気良く返事をしてくれた。
ちょっぴり嬉しい。



「さて、こんなところで話してないでさっさと帰ろうか」

「じゃあここでお別れだな?」

「そうだな、また明日は休みだしゆっくり休まなきゃ…てか休みたい…」

一早く家に帰って寝たいのだ。
今にも倒れそうなぐらい疲れている。

「おれも帰って休むわ、じゃあな二人とも」

誠は手を振りながら歩き出した。
じゃあ俺も

「またな誠、弓人」

二人に手を振り、俺も歩き出す。

「…二人とも疲れてるだろう、送ってあげるよ」

そう言い終えるとぱちん、と指が鳴る音が響いた。
…あれ?
いつのまにか俺は家の前に立っていた。

考える時間は少なかった。

「弓人の魔法か」

ほんと、便利だよな…
俺も使ってみたいものだ。

がちゃ、と家の扉を開ける。

「ただいま」

もう声も帰ってこない。
ほっとし靴を脱ぎ捨て、直様部屋のベッドに倒れた。

幸せな気分だ。

さっきまで幽霊に追い掛けられ走り回ってたことを忘れるぐらい、布団が気持ち良い。

…もうこのまま寝てしまおう。


体を柔らかいベッドに預け、俺はそっと目を閉じた。


おやすみなさい。






…てか俺、こんなんでこれから充実した日々を送れるのか?



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