古キョン
#初恋電車/:03
「お待たせしました。エスプレッソとオレンジジュースです。ごゆっくりどうぞ」
頼んだオレンジジュースを受けとり、ストローでじるじる…と吸う。
空調がほど良くきいた喫茶店内はすこぶる過ごしやすかったが、古泉さんとふたりきりとなると何だかいたたまれない。
それに何のお礼もできていない。
「古泉さん」
「はい、何でしょう?」
古泉さんは相変わらず素敵な笑顔で……って、違うだろ俺!
「あの、今朝のお礼がしたいんですが…」
「それについては気になさらないで下さい。今もこうして喫茶店でご一緒させていただいている訳ですし」
おずおずと申し出るが、さらりとかわされてしまう。
かなり不謹慎かもしれないが俺は何より、これで古泉さんと会う口実がなくなってしまうという事に焦っていた。
「でも……、」
「いいんですよ、本当に……あ、でも何かしないと気がすまないのでしたら、」
俺がすこし焦っているのが伝わったのか、古泉さんは手を組み顎を乗せて微笑んで妥協案、といったようすで軽やかに提案を口にする。
「また今度、僕と食事に付き合っていただけますか?」
「………へ?」
「無理にとは言いませんが、」
あまりにも簡単で願ってもない申し出に目をしばたかせたが、すぐに我に返る。
「そっそんなことないです是非!」
自分でも恥ずかしいくらいに古泉さんの提案に喰いついてしまったが。
「ではまた、空いている日を教えてください」
しかしこれでは俺がまたお世話になってしまうはめになる。果たしてこれで本当にお礼と言えるのだろうか。
「もし良ければ電話番号、教えていただいても?」
「はい…っ!」
……それでも俺はもう、嬉しくて死ねるかもしれません。
ぴろりん♪
まだ沈みきっていない太陽が部屋を薄く照らす。そんな閑散とした中、携帯のメール着信音が鳴る。
「……メール、」
あれから古泉さんとは何度か連絡をとるようになって、一週間が経った。
古泉さんとのメールもやり取りするようになり、主に食事の日程の打ち合わせや、日常的な生活についての会話など様々だ。
結局のところ、俺はお礼に何かしたわけでもなく、未だに食事の予定もお互い中々あわないでいた。
そんなこんなでさらに一週間経ったころ、やっと会える日が決まった。
ぴろりん♪
『では、また当日迎えにあがりますね。』
どうやら近くまで迎えに来てくれるらしい。しかし古泉さんは電車通勤ではなかっただろうか?
その疑問を古泉さんに問いかけると、友人に借りることにしました、とメールで言っていた。
「じゃあ、楽しみにしてますね…、っと」
ぷちぷちとメールの送信ボタンを押すと俺はそのまま携帯を握ったまま、ベッドへと倒れ込んだ。
嬉しいやら緊張するやらで俺の心臓はドキドキしっぱなしだ。メールだけでこんな風になってしまうなんて、まったく予想外だ。
電話もたまにするが、頭ん中は真っ白でテンパりまくっている状況でどうやって内容なんて覚えていられるだろうか。いや覚えてられないだろう。
それにしても、
「早く…土曜になんねぇかな」
今日は月曜日だ。
古泉さんと会える日まであと少しだ。
……何だか急に恥ずかしくなってきた。
あまにも女々しい思考回路に顔から火でも出そうな勢いだ。
うつ伏せになって、枕にほてった顔をグリグリと押し付ける。
しかし俺はいつまでたっても、キモくにやける頬を引き締めることが出来なかった。
*続く*
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