古キョン
倦怠らいふ。(2)
長門も部室から出て行き、皆が帰ったのを確認した後、蒸し暑い外を自分の家とは反対の方向に歩き始めた。向かうはもちろん古泉の家だ。
何故古泉の家を知っているかって?
そんなの…俺と古泉が親しい関係、つまりは恋人という関係にあるからだ。忌々しいがそういうことなんでな。何も聞いてくれるな。
っと、心の中での独り言という痛々しい行為もずいぶん長くなってしまっていたようで、いつの間にか古泉のマンションの前に立っていた。無意識でここまで来れてしまうことに若干顔がひきつるが、早くいつもの古泉に会いたい…ごほん。いや古泉を確認したくて、少々足早に通い慣れた部屋に急ぐ。
ピンポーン
高級な外観に似合わない安っぽいチャイムを鳴らす。
いつもならそんな事お構いなしで図々しく部屋に乗り込んで行くのだが、今日は何だかそんな気分になれなくて、わざわざ呼び鈴を押すはめになってしまった。
「はい」
少し疲れ気味な古泉の声が内側から聞こえて少し驚いた。
長門が元に戻してくれたと言うなら絶対なんだろうが、どうしても不安は拭えなくてドクドクと煩い心臓は治まりそうになかった。
どくん、どくん…
がちゃり
扉が、開かれる。
「…っキョンくん?!」
「…よぉ」
目の前の俺を見るなり目を見開いている古泉は、驚きを隠せないといったところだろうか。
名前、呼び捨てねぇんだな…
「どうしたんです一体…」
「口調、戻ったんだな」
「ええ、おかげさまで」
ふわり、と柔らかく笑った古泉の表情はいつもより穏やかで、安堵しているように感じた。
今回も長門さんのおかげでしょうか、と言った古泉に肯定の言葉を述べる。
本当に長門には感謝すべきだと思うのに、何も出来なかった自分を思うと複雑な気分になった。
「もう夜になりますし、今日は泊まっていかれてはいかがです?」
「そうだな」
そうする、と言って俺は古泉に先導されて中に入った。
ソファに案内されて、ゆったりと腰を据える。古泉は何か飲み物を用意してくれるらしく、キッチンへ向かって行った。
俺はポケットから携帯を取り出し、親に友人宅に泊まる旨を伝えた。そしてゆっくりと部屋の中を見渡す。
相変わらず殺伐としたというか、生活に必要最低限のものしかないというか…
まぁ以前訪れた時よりあまり変化しておらず、その事に安堵した俺はそこでやっと自分の内に溜まっていた息を吐き出した。
すると茶色い麦茶に冷たそうな氷の入ったグラスを持って古泉が現れた。
「はい、どうぞ」
「ああ、さんきゅ」
ありがたくお茶を受け取り、そのまま口にした。ひんやり冷えたそれは暑さと緊張でひりついていた喉を潤していく。
その様子を古泉がにやにやして見ているのに気付いて、何だよと俺が言うと奴は笑って、困りましたねぇとか言い出した。
「貴方があまりにも色っぽいので」
………アホか。
ちくしょう、さっきまで心配してた俺がバカみてぇだ。くそ、忌々しい。
「貴方は分かっていないようですね」
何がだよ!
俺だってなぁ!学校の成績は良いとは言えないが、お前が変態の素質を持っていることくらい分かるぞ!
「貴方が、欲しい」
はぁ?
どさっ…
「い、た……!」
座っていたソファに押し倒されて、身動きが出来ない。腰から下は古泉が跨って押さえつけている。
急な展開に頭がついていけずに取り残されていく。脳内で軽くパニックを起こしていると、古泉は手際よくいつものように俺の制服のシャツのボタンを外し、手を侵入させた。
*続く*
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