古キョン
倦怠らいふ。(1)
あぁ、俺は今まさに疲労感と倦怠感の狭間にいる。
何故かって?
「何変な顔してんだよてめぇ」
因みに今喋ったのは俺じゃないぞ。紛れもないあの謎のイケメン転校生イエスマン…そう、古泉だ。
何?古泉は敬語じゃないかって?
仕方ない。では始めから説明しよう。
あれは放課後の部活でのこと。珍しくハルヒも静かにしていたし、暇だったので当時流行っていたルーキーズのDVDを借りて皆で見ていたら、突然ハルヒが『SOS団もこのアツさに負けてらんないわよ!』とか言い出して…
『みんな明日から不良になんなさい!』
んな無茶苦茶な…俺はまた嫌な予感がした。
ハルヒの中ではどこまでが不良なのか知らんが、次の日は皆に変化はなかった。
ただ一人を除いては……!
その日の朝、たまたま下駄箱で古泉を見付けた。が、どこか様子のおかしい奴が気になって話かけていた。
「よう古泉」
「…よぉ」
「?!…ぉま、どうし、」
「…今日の朝からこの喋り方しか出来ねぇんだ。まぁまた涼宮のせいだろうな」
「………」
喋り方だけならまだしも、表情までいつものコイツと違う。どこか冷たくて感情が剥き出しみたいだ。良く言えばクールとも呼べるのだろうが、何故か俺の頭はそんな古泉を認めるのを拒否していた。
「どーすんだよお前」
「仕方ねぇな。このまま涼宮達の前には出らんねぇな」
はぁ…、と普段では考えられないような重いため息を吐いて、いつもの『やれやれ、』といった眉を八の字にたれる困った表情でさえ、今日は眉間に皺を寄せているという厳しい表情をしていた。
「……」
(こんなの、古泉じゃない)
コイツはこんなのじゃない。
笑顔が嫌になるくらい似合うイケメンで、回りくどいが優しくて、ネクタイもきっちり締める優等生で…
自分でも気付かぬうちに表情に出ていたのか、古泉に顔を覗き込まれた。
「おい、どうかしたのか?」
「…いっ、いや…何でもない」
「……こんなオレは嫌かよ」
「…はぁ?」
チッと普段なら絶対にありえない舌打ちとともに苦虫を噛み潰したような表情。
…そうだ、一番戸惑ってんのは古泉だよな。そんで一番困ってんのは古泉なんだ。
「…あぁ、嫌だね」
「!」
「そんな口調や態度のくせに、いつものムカつくくらいの自信がないお前なんて、俺は認めんぞ」
「……キョ、ン」
ふん、それと俺はお前に名前(あだ名だけど)を呼び捨てにされるのも勘弁だしな。さっさといつものムカつく爽やか笑顔のハンサムに戻りやがれ。
「……ありがと、な」
「……」
でも、照れ隠しなのか顔を背けながら後頭部をガシガシと掻く古泉も面白い、と思ったのは秘密にしておこう。
放課後、古泉はバイトだということにして、団活には参加しないようにした。しかし俺は古泉がいなければ何もする事がないというか…まぁ平たく言えば暇、なんだが。
俺が暇オーラで居座っているのがハルヒにも伝染したようで、朝比奈さんをいじるのも止め、新たな衣裳を買いに行くと言って事実上の解散となった。朝比奈さんもハルヒに連れられ出ていった。
やれやれ。俺はそばにあった自分の鞄を担いで、部室から出ようとしたとき、長門がハードカバーの本を閉じて言葉を発した。
「古泉一樹の言語能力の異常を回復させた」
さすが長門。やっぱり頼りになるぜ。てか古泉が変なのに気付いてたのか。
「いつも悪いな」
「別にいい」
「ん、じゃまた明日な」
こく、と頷く長門を見て、今日の俺のストレスが一気に吹き飛んだ気がした。
*続く*
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